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第11話
「おかあさん、どこにいるの?」
瑞帆は駆け出す。春も過ぎて初夏の香りがしてきた5月の初め、世間は大型連休の最終日。広場では芝生に寝転んでいた人々が、ひとり、またひとりと立ち上がっていく。
取り残されそうな心細さに瑞帆は小さい手を尻に敷かれたシートに付いて、自らも立ち上がる。辺りを見回してみるが、その低い視線では遠くの方まで見ることができなかった。
足元には萎れたシロツメクサが三本、母の代わりとなってそこに存在するのみ。その残骸にも似た残像に、ゆっくりと意識を浮上させる。
「代わり……か」
まぶたを薄く開き、自然光を感じながら瑞帆は目を覚ます。
もうこれで何度目だろうか、夢となって現れるのはいつも母が去った後の萎れた投げ草のみ。どうしても思い出せないのだ、その非情な女性の鮮やかな顔を。
瑞帆は風になりたいといつも願う。目覚めるたびに、形をとらえられないのであれば、自分もまた形ないものになれればいいのにと。そんなことを頭の鉢に植えてその日もバーで演奏していた。そんな瑞帆の植え込みにずかずかと踏み込んでくる世間知らずな手足に、彼は応えたのである。
「えっBLドラマですか?」
社長直々に呼び出されて、何事かと思っていた瑞帆と優我だった。しかし、渡されたのは二人分の台本。最近事務所が力を入れている分野、それが自社タレントのBLドラマへの起用である。
「ついに俺にもオファーが!」
なぜか優我はやる気である。二人はパラパラと中身をめくる。すると、気づく違和感に先に声を上げたのはまたしても優我だった。
「え、高校生役?! うそだろ、俺26なんだけど」
「ああ、そうだ。これはチャンスだぞ、BLファンは世界中にたくさんいるからな。個人もグループも今より多くの人に知ってもらえるかもしれない」
社長は当然乗り気のようで、二人の返事も聞かず話を進める。悪い人ではないが、ちょっとばかり先走るクセがあるのがこの人の難点である。
「えぇ……でも高校生なんて俺に務まるかな?」
「高校行ってただろうが、それに世の中には70才の高校生だっている」
社長の言うことはもっともであるが、これまで黙っていた瑞帆がついに口を開いた。
「優我の制服姿見たい」
お前、いま言うことそれなのか? という周囲の目も気にせず瑞帆は台本に夢中。
はぁ……と仕方ないといったため息を一つこぼし優我が了承した。瑞帆もそれに習ってサインする。
社長室を後にした二人の手元にはお揃いの台本。そのタイトルの下に小さく載った原作者の存在に二人が気付くことはなかった。
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