10 / 19

第10話

 瑞帆は隣で至福を口に含ませていた優我の危うい香りに引き寄せられ、それを自ら手に入れたいと欲が出た。  腕を伸ばし、優我の体ごと包むように引き寄せる。優我からは抵抗の意志など微塵も感じない。あるのはこちらに向けるふわりと浮かびあがらせた目線。確かにこちらを見ている。だが、どこか瑞帆の後ろにある欲望に対し思い焦がれているようなそんな瞳。それを過ぎ去るように瑞帆は自身の顔を優我の肩口へと寄せる。香りが強くなる。もっと、もっとと求めてしまう。ついには優我の首元へとたどり着いた瑞帆の鼻は潰すほどに押し付けられ思いっきり息を吸うのだった。鼻から喉元を通って肺に入る。血液に混ざり数秒で脳へと毒を回すのだ。  いい、ああ最高だ。  瑞帆は獲物の体に長い両腕を巻き付ける。そこから徐々に圧力をかけ締め付けるのだ。どんどん、どんどんと侵食しようとしたそのとき、左耳からそれは入り込んできた。 「瑞帆、おねがい俺を食べて」  はっとした。優我のその言葉に我に返った瑞帆は必死に彼から自らを引き離す。引き寄せたときよりも強く拒否をした。明確に現れた瑞帆のその態度に、優我は心底残念そうな垂れた眉尻を見せつけた。 「そんな顔しても、ダメだよ」  瑞帆は静かに距離をとる。ごめんね、と言ってたばこの火を消した。  この時間はもう終わりなのだと示すようにそれは灰皿へと擦り付けられる。呆気なかった。  二人の肩と肩がすれ違う。真っすぐに前を見据える優我に、「先に行く」と瑞帆が声を置いていく。  それに反応することなく優我は呆然と落ちていく煙を追っていた。  瑞帆は建物内の廊下を数歩進んだところで肩を壁にくっつける。ふっと息を吐き面を外した。すると、困惑顔と言われる面が表れた。体内から熱を放つ塊がずくんと一段重くなっていたのだった。

ともだちにシェアしよう!