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第9話

 優我は今日も仕事でメンバーたちと過ごしていた。いつものメンバー、いつもの楽屋。いつもの仕事現場のはずなのにどこか違和感を感じる。その違和感の正体に優我が気づいたのは楽屋で待機しているときだった。  いつもなら楽屋に入るやいなや他のメンバーがいるのも気にせず、ベタベタと抱きついてくる瑞帆。だが今日はひっついてこない。それどころか、トイレに行くと言って一人立ち上がるのだ。本当にもよおしたのかもしれない、核心に迫るため優我は瑞帆の後を追った。  廊下を進み、トイレの前をすっと通り過ぎる瑞帆。  なんだ? 迷子にでもなったのか? 見当違いなことを考える優我だったが、するすると先を行く瑞帆を慌てて追いかけた。  すると、建物裏へとやってきた瑞帆。他には誰もいない。  それを知ってか知らぬか、瑞帆は壁に背中を預け見覚えのない一本の白枝を取り出した──たばこだ。瑞帆はそれを口にくわえる。慣れた手つきで火をつけて少し下を向いて煙を吐く。  その姿は岩影に潜みひっそりと獲物を待つヘビの様に様になっていた。  あいつ、たばこなんて吸うのか? なんて疑問も忘れ、優我はただただほぅっと息を吐き見つめる。気づけば、彼の方へと歩みを進めていた。  瑞帆が顔をちらりとこちらに向け、たばこを口から離す。 「優我? なんでここへ……」 「たばこ……」 「あ、ああ。これ?」 「美味しそう」  優我の口からふとこぼれ落ちたその言葉に、瑞帆は少し目を見開く。だが、すぐに細くなっていくそれ。何を考えているのか、はたまた何を企んでいるのか、そんな表情で優我を見つめる。 「優我も食べてみる?」  食べるという言い方に少し引っかかる。しかし、優我の目には正当な写実として入り込んできた。 「うん、瑞帆がいいなら」  優我は近づく。瑞帆のもとへと足を運び、ついには目の前まで来た。いや、来てしまった。  瑞帆は自分が咥えていたたばこを優我の口許へと運ぶ。流れるような手つきで、戸惑いなんて微塵もない。いまこの瞬間を逃したら、瑞帆にとっては生き死にに関わることなのかもしれない。  優我はすーっと煙を吸い込み肺に入れる。ドラマや映画で見たことを見よう見真似でやってみる。  ふっと吐き出した煙。反射した瑞帆の顔。  実際には煙と瑞帆を交互に見ていただけのその行為に優我は酔いしれた。  瑞帆は聞いた。「優我も食べてみる?」その言葉の意味を優我は理解した。満足感がやけに溜まる。それは肺から血管へとたどりやがて全身を緑煙のヴェールで包み込む。  その時間は大げさでも何でもなく、優我にとって人生で一番居心地が良かった。

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