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最終話

 シックな照明が手元を照らし、重厚な無垢材を使用したカウンターテーブルが艶を放つ。  日本に来てすっかり行きつけになったバーで瑞帆は最近の自身の心境の変化について考え込んでいた。  加世田は藍への好意を隠そうとしない。真っすぐにぶつけて独占欲を剥き出しにする。瑞帆はそんなふうに優我を締め付けようなんて思ったことがなかった。  瑞帆は人差し指を下唇に当て、台本を睨みつける。自分が抱いたことのない感情を演技に落とし込むのは難儀であった。台本を読んだとき果たしてこの役が自分に何をもたらしてくれるのか。楽しみでもあり、不安でもあった。  しかし、そんなのは自分でも抑えられない感情となって夏の夜空に溶け出すのである。  夏祭り、蒸し暑さのなかでも人々はこぞって群れる。同じ場所、同じ景色を誰かと共有する。そんな思い出の1ページを作成するために加世田と藍も縁日を訪れていた。 「藍、暑くない? 浴衣って帯で締め付けられて暑くなるって聞いた」 「誰から聞いたの?」 「あーえっと、それは」  急に口ごもる加世田に、どうせ元カノ辺りが言っていたことをなぞっただけなのだろうと藍は冷めた頭で聞いていた。  加世田はバツが悪くなり、道の両脇に立ち並ぶ数々の屋台に目を移した。すると、一際涼しそうな雰囲気を醸し出していたそこで足を止めた。 「ねぇ藍、かき氷好き?」 「まぁ嫌いじゃない」  素っ気ない藍の回答に気を良くした加世田ははりきって屋台のおじさんへと声をかける。 「おっちゃん! かき氷二つちょうだい」 「へい、らっしゃい何味にしやすかい?」 「あーえと、俺はレモン味。藍は? 何にする?」 「ん? ああそうだな、俺はメロン味」  カラフルなシロップで溶け出した氷の山。ペンギンのイラストが描かれた紙カップ入りのそれを、加世田は二つ受け取る。 「はい、あっちで食べようぜ」  人の少ない空の開けた場所に移動する二人。  それを見計らったように花火が上がる。  そこに浮かぶ二つの氷山が今にも溶け出しそうで、二人の距離は今よりも近づく。  花火の熱に浮かされ、花火の光に照らされる。  それを背景に二人の唇が重なるのである。  台本の通りに演出家の指示に従って今日の撮影が終わった。  瑞帆は自分でも不思議だった、ここまで流れるように自然に演技ができている。  この変化の要因、それを確かめるために優我を呼び出したのだ。  通気性の高い波の凹凸が目立つジャケットを羽織り、室内でも季節感を感じさせるその装いに優我はほうっと息を吐く。  彼はいつもは甘えたで優我にひっついてばかりだが、こういう場所にいると絵になるという表現がしっくり来る。  カウンターに座る彼の隣に優我はすっと腰を下ろした。 「来てくれてありがとう」 「そりゃ真剣な顔して誘われれば来るしかないだろ」  優我はぶっきらぼうにそう答えた。 「何飲む?」  いつもと同じ優我の物言いにふっと笑みをこぼし瑞帆は安心する。 「爽やかなものがいいな」 「爽やかなもの? うーん、マスター何かおすすめありますか?」  側に待機していたマスターに瑞帆は問う。 「でしたら、メロンフィズはいかがですか? 飲みやすく、後味もすっきりしていますよ」 「じゃあ、それで」  特に考えることなく即答する優我にはぴったりの飲み物だなと頭の端で思う瑞帆。  いつもは一歩一歩慎重に進める優我だが、こういうときは瞬きひとつで答える。  瑞帆の耳に落ちた声に心地よくなる。 「お待たせいたしました、メロンフィズでございます」  差し出された鮮やかな緑に二人は会話を託した。 「ねぇ、優我は俺を捨てる?」 「ああ、捨てるかもしんねぇ」 「ふっ上等」  その言葉を聞いて瑞帆は安心した。取り繕うことのない優我の返答に後味は爽やかさな香りで満たされたのであった。  泡のなかに二人は溺れる。ベッドになだれ込み、その勢いのまま絡み合う。瑞帆が上から順にキスを落としていく間も首にかかる優我の腕が今は絶対に離さないと訴えているようだ。瑞帆はその冷たくも温かい締め付けにもっともっとと行為を深くする。  自身の腰が動くたびに嬌声を上げる優我に瑞帆の心は満たされていく。もう後ろへは戻ることはできないのだろう、それでもこの人とこの瞬間を感じられるのなら瑞帆にとっては至福となる。  二人の周りには緑の風が吹き荒れていた。 ────────────────────── 今後、瑞帆と優我の短編集を投稿する予定です。 よかったら読んでいただけると嬉しいです☆

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