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2. 導かれし魂
「ダナちゃ~ん、これも持っておいき! ウチの畑で今朝とれたやつだよ!! 」
ラーヴェンより北に100km、山脈の連なる国デンドリス。…の、とある村フォルティス。
ここでダナ……もとい、ダグラナ・アリア・フェルナンは暮らしていた。幼い頃に両親を亡くして、村人が善意で建てた小さな家に、1人で。
フォルティスは村人全員が家族のような、小さい村だ。ダグラナはその心優しい村人の助けもあり、毎日をささやかに、慎ましく送っていた。
皆からはダナ、と愛称を込めてそう呼ばれていた。
「ミサおばさん、わざわざありがとう」
「なに言ってるんだい、ウチの畑はダナちゃんにあげる分もちゃあんと作ってあるんだよ! 足りないなら言ってちょうだい、まだたっくさんあるんだ」
「うん、助かるよ」
向かいのミサおばさん。
ダグラナが両親を亡くした頃からずっと面倒を見てくれている、向かい家に住む女の村人だった。
ダグラナが両親を亡くした事を自覚し、ショックで心を閉ざしていた時期も甲斐甲斐しく世話をしてくれた。まるで、本当の子供のように接してくれていたのだ。
…だが、それも今日で終わりである。
明日、夜明けと共にダグラナは生まれ故郷のフォルティスを発ち、デンドリスを出る。
ひとつきほど前、木の実を採りに山へ出ていたダグラナだったが、日が暮れても帰ってこなかった。
心配した村人たちがダグラナを探せば、山の中腹あたりでダグラナを発見する。腰を落とし、呆然としている状態で。
妙なのは、ダグラナを中心とし放射状に回りの木々がすべて跡形もなく燃やされていること。
かろうじて残っている枝は幹に触れれば、すぐに炭の粉になってしまう。
何があった、とダグラナに駆け寄る村人だが、いくら話しかけてもまるで反応がない。
しかしフォルティスの村長はすぐに気がついた。
「ダナ……お主、目覚めおったな……?」
その声にビクリと身体を震わせたダグラナ。
「……ぉ、覚えてない、…んだ。自分が…何をしたのか何で、こんなことに…なって、いるのか。気がついたら全部……っ!! 全部、焦げてた…んだ……っ!!」
「間違いないな…。ダナ、よく聞きなさい。
これは使徒の魔力の覚醒じゃ。なぁに、何も恐がることはない。どれだけの力を持つ使徒とて覚醒時は己の魔力を制御できぬものと聞く。それがお前さんの場合、あまりに突然で、あまりに爆発的だっただけのこと。なにも気にすることはあるまい……。<自戒具> もないさな、仕方あるまい。
………ダナ、これはお前さんのせいじゃあらんよ」
この時ダグラナは、いつぶりか、というほどに久しく涙を流した。
驚き、木々を一瞬にして炭へと枯らしてしまったことへの罪悪感。何か、心の奥でくすぶる気持ち悪い感覚…。
色々な感情が混じりあったものだった。ギュウ……っと村長に抱き締められた。
そこへ、わらわらと他の村人も近寄ってきて代わる代わる声をかけた。
「まったくダナってば、お前ことしいくつだよ?!
「……16」
「ったくクヨクヨ泣いてんじゃないぞ~? 男だろ」「だ、だって……!」
「まぁ流石にびっくりしたわね。大丈夫よ、ダナちゃん」
「……うん。ありがと」
「ほれほれ帰るぞダナ。いつまでもこうしちゃいられんからな」
「村長…」
「そうだな、獣が襲ってきちゃいけねぇや。とっととおりようぜ」
それから村に着き、その日は早々とダグラナは眠りについた。
次の日、ダグラナは村長や博識な者から「使徒」について様々と教わることになる。そして下された決断が、ダグラナがこの村、国を出てラーヴェンを目指すこと。
「使徒」の覚醒を得たからには、こんな狭い所ではなく、もっと広い世界を見てほしい。
ダグラナを幼い頃から見守ってきた村人たちの切なる願いだった。
「……なぁんてこともあったなぁ~、ダナ! いやぁ、たったひとつき前なのに懐かしいもんだ!!」
「ちょ、やめてよダグラス!! そんな恥ずかしい話しなくても……」
ダグラス。ダグラナの隣の家に住む同い年の少年である。名前が似ている、というのもあり、ダグラナ一番の友人である。
…今、広場にはフォルティスの村人の全員が集まって「ダグラナ出立の宴」という名目で別れの儀を行っていた。
それぞれの家のおかみが腕をふるい、料理を持ちより、酒を持ちより、皆で騒いでいるのだ。
ちなみに、ダグラナは酒が苦手なので飲んではいない。
「ほれほれええ加減にせぇよ、お主ら。明日は早いんじゃ」
「村長! いやぁ聞いて下さいよ! ダナの奴…」
「ちょ…ダグラスやめてってば!!」
ブワァッ………!!
「キャッ!」
「うおっ?!」
ダグラナが少し大きな声を出したその時、皆が囲んでいたたきぎが大きく燃え上がった。…一瞬だが。
付近にいた村人が驚き声をあげる。
「……はぁ、もう。こうなるからやめてってのに…」
「お、おう…あはははっ、悪かったな!ダナ」
「笑い事じゃないよ~…」
ダグラナにはまだ<自戒具> がない。
魔力を覚醒させた者にはこれが必須なのだが、それがないダグラナはまだ上手く魔力の制御ができないのである。
感情が昂ったり、大きな声を上げるとこうして何かに影響が出るのだ。
…まだダグラナの使徒としての魔力はなんなのか判明していない。上手く制御することもできない。
故にこのように魔力が無意識下で発せられるのは非常に危険なのだ。
「……おい。ありゃ誰だ?」
ふと、村の入り口側に座っていた男たちが妙に騒ぎ出す。
どうやら客人のようだ。
「なんじゃ、こんな山奥に…しかもこんな夜更けに。珍しいこともあるもんじゃ」
膝にてをつきながら村長が腰をあげる。
ほれお客様だぞ皆の衆。出迎えの用意を、といいながらやってきた訪問者へと近寄っていく。
「……お主…は、…!」
そこで村長が大きな声をあげる。
出迎えの用意をしていた村人たちが何事かと村長と訪問者の近くへと寄っていく。そこで数人の村人も弾けたように声をあげ始めた。
「…おいダナ、行ってみようぜ」
「ダグラス。うん…気になる」
「あの時の…!! 火竜襲撃時に助けて頂いた…!」
火竜…襲、撃…??
またもや村長が上げた大きな声に、ダグラナの中で何かが引っ掛かった。
「…? ダナ? どうした」
「……っあ、いや…なんでも、ないや」
一瞬歩みを止めたダグラナだったが、再び走り出す。村長の近くへ行けば、どうやら話題はダグラナのことのようだった。
「こちらが…あなた様にあのとき助けて頂いたお命、ダグラナ・アリア・フェルナンでございます」
「…っ?! え、村長……??」
「……! お前、が…」
この後、ダグラナは驚愕の事実を知ることになる。
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