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3. 出逢った魂
その青年は、見るからに村人の皆とは違う空気をまとっていた。青年の佇む周りだけ、特別な「何か」があった。
「…あの時の………」
来訪者の青年はダグラナをその黒の瞳に捉えると、ジッ…とダグラナの瞳を見つめ続けた。
ドクンッ
「…っ?!」
突如、ダグラナは内側から何かが溢れる感覚に襲われた。
どんどん身体が熱くなる。今までにない、新しい感覚。焼けそうでひりついて、何かを必死で求めてやまない。
「お、おいダグラナ……どうし…っ?!」
立って、いられなかった。
ガクンッと地べたに座り込むダグラナ。
(アツ、い暑い…アツいアツいアツいアツいアツい…!!)
未知の感覚に、ただただ震えていることしかできず、隣で慌ててなにかいっているダグラスの声も遠い。混乱しているうちにもどんどん身体は熱くなり、息さえままならなくなってくる。
「…っか、……はっ…!」
「おい、おいダナ?! …っくそ、一体どうしたってんだよ!! 」
村人が狼狽えるなか、ただ一人村長だけが状況を理解していた。
「Ω の発情じゃ!! みな、はようダナを家の中へ!!」
βの、それも女の村人が、数人がかりでダナをかかえあげる。
Ω の発情。ダグラナは、16歳時点でまだΩ 特有である発情期を迎えていなかった。
この村のほとんどがβ で、村長を含め数人存在するα も高齢で、「その機能」はまったくといっていいほど無くしていた。
故に、村のα と接触しても発情期が誘発されることはなかったのだ。
この場にいるのは皆β 。Ω の発情にあてられども理性を抑えることは可能であった。
……ただ、一人を除いては。
「青年よ、一応聞いておくがお主…」
そこまでいいかけて村長は絶句した。
その時の青年の瞳は、獲物を見つけた獣のそれ。興奮しきった顔だった。フーッ、フーッと荒い息を吐いている。
…この青年、α であった。
「男ども!! この青年を取り押さえるんじゃ!! 」
「…え? どうしたんだよ村長、なんだって急に」
そこまで言って、村の男もやっと気がついた。
「……お、おいアレ、まずくねぇか……?」
が、時既に遅し。
この青年、使徒であった。己の魔力で風の流れを作り出し、それを勢いよくダグラナへと向ける。
力の弱い村の女たちによって抱えられていたダグラナはあっという間にその風にのって青年のもとへとつれていかれた。
「…俺、の………がぃ…っ!」
青年がダグラナに手を伸ばしかけた、その時。
ピシャッ!
「?!」
「ちょっとなにやってるのよノーラッド!! アナタみたいな大のα の男が子供に手を出すなんて情けない!! 手、引っ込めなさいよ!!!!」
不意を突いた出来事に、ノーラッドと呼ばれた青年も少し驚いたらしい。
見ればノーラッドの斜め上を小さな女の妖精が浮いていた。
青年が顔に手をやる。濡れていた。
「…なんと珍しい………。水の妖精じゃ…」
「あら、よくお分かりね」
落ち着きを取り戻したらしい青年が、無言でダグラナを女たちの元へと戻す。
同時に、小さな包みを女たちへ投げてよこした。
「特効薬だ。それで今回のは治まるはずだ。その、藪から棒に……すまなかった」
「いや、大事なくてよかったよ…。お主、名は?」
「…ノーラッド・ガルネイド。放浪の使徒だ」
これがノーラッドとダグラナ、二人の、____2度目の出会いだった。
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