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4. 蘇る記憶
「……ぅ、あ」
「! 気がついたか、ダナ!!」
ダグラナが目を覚ますとすぐそばに心配そうにダグラナを見ているダグラスの姿。
「え、僕どうしてここに…」
ダグラナは今、ベッドの上だった。
「覚えてないのかよ。お前、あのあと気ぃ失って俺の母さんとかミサおばさんとかに担がれてここまできたんだぜ? んで、俺が特効薬飲ませた」
「そう…だったの。うわ、悪いことしちゃった……重くなかったかなぁ、僕」
そこまで言って、隣からダグラスの大きなため息。
え、なんで。とダグラナが顔を見上げると、そこには呆れ顔のダグラス。
「ったくよぉ…お前ってやつぁ。あんな状態になったのによくもまぁ他人の心配なんてできるよな!
安心しろよ、最後はミサおばさんが何でこんなに軽いのかしらっ、って言って一人でベッドまで連れてきてたから」
「ご、ごめん…。そうなの? ならよかった」
ふにゃ、と笑みを浮かべるダグラナ。
その笑みに一瞬、グッと詰まるダグラスだったがすぐに続ける。
「そ…それにしても何なんだアイツ。いきなりきてダナのこと…」
「そうだ! ノーラッドは? どこにいるの?! 」
一瞬凍りつく空気。
ダグラナもダグラスも困惑していた。
「……んで、お前アイツの名前知ってるんだぁ…?」
「え、あ…。ぅ、ん? どうしてだろ…わかんない。なんか気づいたら…呼んでた」
最後、放浪の使徒が名乗ったときには既にダグラナの意識はなかった。
…わかるわけないのだ。覚えてるわけでもないのに。
今から約12年前、ここフォルティスは現在よりも少し北に位置していた。
ある日の晩、フォルティスは火竜の襲撃に遭う。
縄張りを少し外れた、非常に飢えた、オスの火竜だった。
火竜はフォルティスを見つけると炎を吐き何もかも焼き払った。フォルティスは、たくさんの犠牲を出した。
その犠牲の中にいたのが、ダグラナの両親だった。
その時ダグラナはまだ4歳。詳しく状況が理解できなくても「大変だ」ということだけはわかっていた。
両親を喰われ燃えあがる家、その中に一人取り残されたダグラナ。
延々と泣き続ける声は外にまで届いていた。
助けたくてもどうすることもできない村人。もうこれまでか…、と諦めかけたその時、一人の少年が家の中へ飛び込んだ。
一瞬見えた横顔は、この村で見慣れた顔ではなく、着ている服も、身に付けているものも心なしかデンドリスのものではないように思えた村人だった。
正体はわからなくとも、もはやこの少年にダグラナを託すしかない、と少年の帰還を待った。
暫くして、家から人影が現れる。…少年だった。
腕には泣き叫ぶダグラナを抱え、背のマントは半分以上焦げ、顔には痛々しい火傷を負っていた。
よくみればこの少年、まだ17~8歳で、顔にはまだあどけなさが残っていた。
近寄ってきた村長にダグラナを渡し、「離れていろ」と村人の一声かけたのち、両手を崩れかける家へと向けた。そこから水を作り出し、瞬く間に家は沈下した。竜はいつのまにやら消えていた。
そう。この少年こそ〈創造〉 の使徒、若かりし頃のノーラッド・ガルネイドだった。
「どうしてわかったのかはわからないよ…。でもわかる。いいや、わかったんだ。あの人は村長から聞く、火竜が襲ってきた時に僕を救ってくれた人。僕の、命の恩人だよ……!!」
「いやいや最初の方、言ってることむちゃくちゃだぞお前。どういうことだよ、それ」
その時、コンコンというノック音。こんな時間に…誰であろうか。
「…どうぞ!」
ダグラナが声をかけるとスッと扉が開く。そこに現れたのはノーラッドと水の妖精だった。
「あ…アナタは………っ!!」
「ダグラナ…と言ったね。先ほどはすまなかった。…その、身体は平気…か?」
無表情なのだがその中にどこか心配しているという色を伺わせる顔に、やはり懐かしい…? と感じるダグラナ。
「……ねぇ、ノーラッド。僕、君に会ったことある?」
やはりここは聞いてみるのが手っ取り早い。
ダグラナは開口一番、そうノーラッドに問いかけた。
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