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5. 共に

「…なぜ」 「っえ?」 ノーラッドが口を開く。何を言っているか、その時ダグラナは聞き取ることができなかった。 「なぜ……そう思った」 「…!」 ……また。また、だ。 あの黒い瞳がダグラナをとらえる。ジッと見つめられるとどうしても一瞬怖じ気づいてしまう。 だがダグラナはそれに反して言葉を発する。 「…なんとなく、だよ。どうしてだか君とは以前、ずっと昔に会ったことがあるような気がするんだ」 自分でも不思議だった。どうしてそんなことが言えるのか、それも初対面の人間に。 「……12年前」 「え?」 青年が口を開く。どうやらなにか話してくれるようである。 「12年前にここ、火竜の襲撃に遭っただろ。」 「僕、その事は覚えてないんだけど。……でも確か、その時に僕を…助けてくれた人が、いるって……! …ま、まさか!!」 そこまで言ってどうやら繋がったようである。 「僕を助けてくれてのって……!」 「…俺だ」 ぱぁぁぁっとダグラナの顔がほころぶ。 12年前、ダグラナは僅か4歳。火竜襲撃の記憶なんて残るわけがなかった。 そこで村人は頃合いを見計らってダグラナに真実を伝えた。 昔に火竜の襲撃があったこと。その時にたくさんの村人が死に、その中にはダグラナの両親もいたこと。 ピンチだったダグラナを救った少年がいること、その少年はなにも名乗らずに行ってしまったこと。 それらの事実と今晩の村人の反応をみたら全てが繋がった。 「本当にありがとう! 君は命の恩人だよ!! 12年も昔だけど、お礼を言います」 「お、おいダナ……。この人、俺らよりも多分年上だぞ……?」 そこでダグラスが口を挟む。 どうやら年上にその態度と口調はどうなんだ、といいたいようである。 「……ノーラッドは、今いくつ?」 「…答えろと」 「うん、ぜひ」 ダグラナはにっこりと笑って言う。 10年以上昔に助けられた命の恩人にこうして奇跡的に再会できたのだ。それに、これが終われば次はいつ会えるかわからない存在。 せっかくの機会だ。色々と尋ねておきたいものである。 「29」 「………結構、年いってんだね」 「…な」 「あらあらまぁまぁ。ノーラッドがこんなに饒舌になるなんて。珍しいこともあるものね」 そこへ扉の方から女の声が1つ、ノーラッドの声を遮った。 声の主は小さな身体で、宙にふわふわと浮いていた。髪の毛と肌は全体的に水色で、瞳に至っては吸い込まれそうな程に透き通ったものだった。 「…妖精?」 「あらぁご名答、ね。ダグラナ? 」 「! 驚いた…どうして僕の名を? 」 「うふふ。さぁ? どうしてかしらねぇ? それより、申し遅れたわ。私、水の妖精族のリリマ」 するとノーラッドの腕がニュッと伸び、リリマの身体をむんずと掴んだ。そしてそのままリリマを肩まで持っていく。 「ちょっとノーラッド、痛いじゃないのよ!」 「……」 「…もう! 女の子にはもうちょっと優しくして欲しいわ!!」 そう言いながらもリリマは大人しくノーラッドの肩へと腰を下ろす。 が、すぐにノーラッドの肩から飛び立ち、ダグラナの前へとくる。 「違うわ!! 私、あなたに言いたいことがあったのよ!!」 「おいリリマ…いい加減に……」 「私たちと一緒にこない? ダグラナ」 ダグラナは一瞬、何を言われたのか理解ができなかった。へ? と間の抜けた声をあげる。 そして徐々に追い付いてくるリリマの言葉の意味。 「えっ……と。冗談…?」 「うふふ。まさか、冗談でそんなこといわないわ。 ねぇ、」 リリマが、ノーラッド…といいかけたその時。なにか透明な球体がリリマを覆い、リリマの声が途中で遮られてしまった。 「…ったく」 ノーラッドの方を見れば、リリマの方へ手をかざしていた。 どうやら、リリマを覆っている透明な球体はノーラッドによって作り出されたものであるようだ。 「ダグラナ…と言ったか。すまなかった。リリマが勝手なことをペラペラと……俺たちはもう行く。これで失礼するよ……」 「! 待って!!!」 ここでなぜ、ノーラッドを呼び止めたのかは後になっても思い出せないダグラナであったが、直感が行かせてはならない、とダグラナを叫ばせた。 当然、混乱するダグラス。 「ダナ?!」 「お願い待って、ノーラッド!」 「……なんだ」 「僕も……、僕も一緒につれてって!! その旅に!」 驚く一同。 ヒュウッと薄く開いていた扉から風が通り抜ける。それを確認したリリマ。 驚く一同の反し、ダグラナの発言に驚きではなく喜びを示しているのも、リリマだった。 「よくいったわ、ダグラナ!!」 リリマである。 どうやらリリマ、ダグラナのことが相当気に入ったようである。 「お願い! ノーラッド!!」 「……本気か」 「嘘でこんなこといわない!!」 しばらく瞳を合わせる二人。 その時、ダグラナがふと思うのはノーラッドの瞳の色のこと。見事な黒髪に混じりけのまったくない美しい黒眼。 この瞳に見据えられると、どうも身体の奥が疼く。 「……夜明けと共に出発する。村の入口の門の所に集合だ」 「…!」 ぱぁっと顔に花を咲かせるダグラナ。 遅れるなよ、と言い残し、ノーラッドとリリマは出ていった。

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