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第1話 これだろ
「うわ……マジかよ」
船に乗った瞬間、俺は思わず声を漏らした。
一泊二日の大型クルーザー。
広いラウンジには革張りのソファが並び、奥にはバー。
大きな窓の向こうでは、夕方の海がゆっくり流れている。
そして、その真ん中に六人。
全員、めちゃくちゃレベルが高い。
今回のゲームは単純だ。
この六人の中にいる、本物の女性を当てる。
フリータイム中は自由に話していい。
時間が来たら一人を指名する。
当たれば俺の勝ち。
外したら相手の勝ち。
判定後は二人きりの部屋へ移り、勝った側が主導する大人のご褒美つき。
ネットで見つけたときは、
――こんなの参加するしかないだろ。
と思った。
童貞卒業。
しかも豪華クルーザー。
最高じゃん。
『それでは、ゲームを開始します』
船内スピーカーから主催者の声が響いた。
『公平を期すため、候補者の皆さんにはチョーカー型のボイスチェンジャーを装着していただいています。また、ゲーム中は名字のみでお呼びください』
六人の首元を見る。
全員、細い黒いチョーカーをつけていた。
なるほど。
声で分かったら簡単すぎる。
『寺田さん、桃井さん、鶴田さん、玉井さん、森本さん、桜井さん。以上六名です』
俺は順番に見る。
その中で、一人。
どう考えても目立つ人がいた。
寺田。
淡い色のワンピース。
長い髪。
細い肩。
上品な立ち方。
俺と目が合った瞬間、ふわっと笑った。
「……」
いや。
これだろ。
俺、もう分かったかもしれない。
****
船が港を離れると、フリータイムが始まった。
俺はビールを片手に、六人と少しずつ話した。
桃井は小柄でかわいい。
鶴田は背が高くて、顔がやたら整っている。少女漫画の王子様みたいだ。
玉井は華やか。
森本は落ち着いている。
桜井は服からして目立つ。フリル服。
でも、俺の中では寺田が圧倒的だった。
バーの前で炭酸水を飲んでいる寺田のところへ行く。
「それ、酒じゃないんだ」
「うん。最初から酔ったらもったいないかなって」
「真面目だな」
「福島さんは?」
「ビール」
「似合う」
「何が?」
寺田がくすっと笑った。
かわいい。
マジでかわいい。
「寺田って、普段何してんの?」
「接客の仕事」
「へえ。忙しい?」
「日によるかな。福島さんは?」
「普通の会社員」
「仕事、好き?」
「日による」
「同じじゃん」
二人で笑う。
話していて楽だ。
変に俺を試す感じもない。
寺田がグラスを置いた。
「福島さんって、ちゃんと人の話聞くんだね」
「普通だろ」
「さっき他の人とも話してたけど、質問したあとちゃんと返事待ってたから」
「何それ」
「いいなって思っただけ」
さらっと言われて、少し照れた。
「……そういうの、急に言うなよ」
「ごめん」
寺田が笑う。
その笑い方も自然だ。
作ってる感じもしない。
しばらくして寺田が俺のグラスを見る。
「緊張してる?」
「してない」
「ほんと?」
「なんで」
「さっきから、何回もこっち見てるから」
「……見てた?」
「うん」
ちょっと恥ずかしくなって、ビールを飲む。
「ゲームだから。誰が女か見ないといけないし」
「そういうことにしとく?」
「何だよ」
寺田がまた笑う。
やっぱりかわいい。
俺の中で、答えがほぼ決まった。
しばらくして、ラウンジにチャイムが鳴る。
『福島さん。指名の時間です。選択室へお越しください』
来た。
俺は立ち上がる。
寺田を見ると、向こうもこっちを見ていた。
俺はちょっとだけ笑って、その場を離れた。
****
選択室にはソファとモニターだけが置かれていた。
ドアが閉まる。
『第一回の指名を行います。選ぶ相手の名字をお願いします』
「寺田」
迷う必要もなかった。
『寺田さんですね』
「ああ」
『決め手は?』
「見た目。あと話した感じ」
俺はソファにもたれた。
「たぶん当たりだと思う」
『分かりました。寺田さんに入室していただきます』
少しして、ドアが開く。
寺田が入ってきた。
「私だったんだ」
「ああ」
「自信ある?」
「かなり」
「そんなに?」
「最初に見たときから、お前だと思ってた」
寺田が向かいに座る。
「じゃあ、当たってるといいね」
「当たってるって」
俺はちょっと得意になった。
これで童貞卒業。
相手はこんな美人。
運よすぎだろ、俺。
『それでは、判定を行います』
寺田が立ち上がった。
髪へ手を伸ばす。
するっと外す。
「……え?」
短い髪が現れた。
続けて服を整え直す。
細く見えていた肩の線が、急に男っぽくなる。
「…………え?」
寺田がチョーカーを外す。
さっきまでの声よりずっと低い声で、
「俺、男」
と言った。
「…………」
「外れ」
「うそだろ!?」
俺は立ち上がった。
「お前、その肩どこに隠してたんだよ!」
「着痩せするって言われる」
「着痩せってレベルか!」
寺田が声を上げて笑った。
普通に男の声。
普通にいい男。
さっきまで美人だったのに。
『判定は不正解です。このラウンドは寺田さんの勝利となります』
寺田が俺を見る。
でも、すぐ奥のドアへ向かわない。
「……そんなにショック?」
「そりゃそうだろ。絶対当たったと思ってた」
「俺は、ちょっとうれしいけど」
「は?」
「選んでくれて」
俺は寺田を見る。
「なんで」
寺田が少し照れたみたいに笑った。
「ラウンジで話してるときから、福島のことかわいいと思ってたから」
「……俺を?」
「うん」
「どこが」
「真面目にゲームやってるところとか。質問しても、ちゃんと返事聞いてくれるところとか」
「普通じゃん」
「そういう普通のところがいい」
また照れる。
何だよ。
男に言われてるのに。
「それに」
「まだあんの?」
「俺を選んでくれたら、うれしいなって思ってた」
「……」
「抱いてみたかったし」
さらっと言う。
俺は数秒固まった。
「お前……」
「何」
「正体バレたら急に言うことすごいな」
寺田が笑う。
「もう隠す必要ないから」
腹立つ。
でも。
“罰ゲームだから仕方なく”って感じじゃない。
こいつ自身が俺を選びたかった。
そう思ったら、さっきより妙に緊張した。
「じゃ、行こうか」
「……分かったよ」
「福島」
「何」
「選んでくれて、ありがとな」
「……おう」
それだけ答えて、俺は寺田の後についていった。
****
寝室に入ると、さっきまでより急に寺田が近く感じた。
女だと思って見ていた相手が、今は完全に男。
首も。
肩も。
腕も。
近くで見るほど分かる。
「何見てんの?」
「……別に」
「さっきまであんなに自信満々だったのに」
「一回外しただけだろ」
「じゃあ余裕?」
「当たり前」
「そっか」
寺田が優しく笑うと、そのままゆっくり距離を詰めてきた。
俺はベッドの縁に腰を下ろされ、その大きな手に顎をそっと支えられる。
「福島……やっぱりかわいいな」
「男にかわいいって言うなよ……」
「かわいいから言ってるんだ。ちゃんと見てくれよ」
低い声が耳元に落ちる。
寺田は俺のシャツのボタンを一つずつ丁寧に外しながら、唇を首筋に這わせた。
熱い吐息が肌を撫で、思わず肩が震える。
「力入ってるよ。……怖い?」
「だって……近いんだよ」
「俺が?」
「お前以外誰がいるんだよ……っ」
「ふふっ。かわいい」
「それ禁止」
「無理。甘やかしたくなるんだ、福島のこと」
服を脱がされ、素肌が夜気に晒される。
寺田は自分の服も脱ぎ捨てると、俺を優しくベッドに押し倒した。
体重を乗せすぎないように気を配りながら、太ももを俺の両脚の間に割り込ませてくる。
「福島、ちゃんと俺を見て」
「……見てる」
「いい子だ。怖がらなくていい。全部俺がしてあげるから」
熱い舌が乳首を転がし、指がもう片方を優しく摘まむ。
甘い刺激に背中が反り、思わず吐息が漏れた。
「んっ……」
「無理に喋らなくていいよ。顔見れば分かるから」
寺田の手がゆっくりと俺の勃起を包み込み、親指で先端を撫でる。
先走りが糸を引き、くちゅ、という卑猥な音が部屋に響いた。
「あっ……ん、そ、そこ……」
「ここ、弱いんだ。教えてくれてありがとう」
指が丁寧に裏筋をなぞり、時折ゆっくりと上下に扱く。
焦らすわけでもなく、ただ優しく、丁寧に。
俺の反応を一つ一つ拾いながら、寺田は満足そうに微笑んでいた。
「福島の声、好きだよ。もっと聞かせて」
「うるせ……っ、んあっ……!」
指が一本、ゆっくりと後ろの入り口を押し広げてくる。
ぬるりとした感触に身体が強張るが、寺田はすぐに額を俺の額に寄せ、低い声で囁いた。
「大丈夫。俺がいる。痛かったらすぐ言うんだ」
「……っ、う、ん……」
指が中で優しく屈伸し、壁を探るように動く。
二本目が入ったときには、すでに甘い疼きが腰の奥に広がっていた。
「んぁ……っ、ふ、深……」
「ここ、感じてるね。いい子」
指がゆっくりと抜き差しされ、ぐちゅぐちゅと水音が立つ。
俺の脚は自然と開かれ、腰が小さく跳ねていた。
「も、もう……いい……入れ……」
「急がなくていい。全部俺に任せて」
「はやく……お願い……寺田……」
「わかった。あせらないで」
寺田は最後まで急がなかった。
俺を抱いたまま、少しずつ身体を重ねてくる。
深くなるたびに、「大丈夫」とでも言うように背中を撫でられた 。
「んあっ……! あ、熱……い……」
「福島の中、すごく柔らかい。締めつけてくる……気持ちいい」
一気にではなく、一寸ずつ。
寺田は俺の表情を凝視しながら、優しく腰を沈めていく。
根元まで埋まった瞬間、二人の吐息が重なった。
「全部入ったよ。……苦しくない?」
「……ん、大丈夫……あったかい……」
「よかった。じゃあ、動くね」
ゆっくりと引き抜かれ、また奥まで押し込まれる。
ぐり、と甘い場所を擦られるたび、甘い電流が背筋を駆け上がる。
「あっ……あっ、そこ……んぁっ……!」
「ここ? わかった。大事にしてあげる」
寺田は腰を深く沈め、円を描くように優しく擦り上げてくる。
激しく突くのではなく、じっくりと甘い芯を抉るように。
俺の中を丁寧に味わいながら、時折唇を重ね、舌を絡めてくる。
「福島……かわいい声。……もっと出していいよ」
「んあっ……! だ、だめ……そんな……優しくされたら……ひうっ……!」
「いいんだ。俺に甘えて。全部受け止めるから」
ピストンのリズムが少しだけ速まる。
ずぽ、ずぽ、と湿った音が部屋に響き、結合部から白く泡立ったものが溢れ始める。
寺田の手が俺の乳首を優しく摘まみ、同時に腰を深く突き上げた。
「あひっ……! んぁ、奥……っ、だめっ……!」
「だめ、じゃないだろ。気持ちいいって顔してる」
「し、してない……っ、んあっ……!」
「嘘だよ。ほら、こんなに熱く締めてくる。……福島、もっと甘えていいよ」
「っ……わ、わからない……」
「正直に。俺は好きだよ。福島のこと、すごく」
その言葉と同時に、深く抉る一突き。
甘い場所を的確に押し潰され、俺の視界が白く霞む。
「ひぅうっ……! あっ、あっ、あっ……! そこばかり……んぁあっ……!」
「いいよ。声、出して。俺だけに聞かせて」
「寺田……っ、んあっ……! もっと……深く……っ」
「わかった。いい子だね」
寺田は俺の腰を優しく固定し、ゆっくりと、しかし容赦なく甘い芯を責め立てる。
ずん、ずん、と奥を突かれるたび、甘い痙攣が内側で広がっていく。
「んぁっ……! だ、だめ……きちゃう……っ」
「いいよ。イッて。俺ので、思い切り」
「あっ……あっあっ……! いく……っ、いくっ……!」
甘い絶頂が腰の奥から溢れ出す。
びくびくと身体を痙攣させながら、俺は白濁を自身の腹に吐き出した。
寺田も俺を抱き締めたまま息を詰め、少し遅れて身体を震わせた。
「福島……すごい。締めつけて……全部出すよ」
「んぁあっ……! 熱い……っ、中に……いっぱい……っ」
どぷどぷと脈打つ感触が続き、熱い精が俺の奥を満たしていく。
最後まで、抱く腕だけは優しかった。
****
しばらくして。
寺田は抜き去らずに、そのまま俺の上に覆いかぶさったまま、優しく額を寄せてきた。
「……最悪」
「何が?」
「俺、変な声出してた?」
「いっぱい。かわいかったよ」
「忘れろ」
「無理。大事に覚えておく」
「忘れろってば……!」
寺田が低く笑う。
俺は枕へ顔を押しつけたが、中に残る熱い感触がなかなか消えない。
初めて男としたセックス。
こんなに気持ちのいいものだとは知らなかった。
童貞喪失の前に、アナル処女喪失。
少し複雑な思いをしている俺に、寺田は水を渡してきた。
「はい」
「……ありがと」
受け取って飲む。少しして、寺田が言う。
「福島」
「何」
「俺、本当に選んでもらえてよかった」
「まだ言う?」
「だって楽しかったし。……また、こうやって甘やかしたい」
「……」
「ゲーム終わっても、また話したい」
俺は寺田を見る。
からかってる感じじゃない。
普通に、優しく言ってる。
「……まあ」
「うん」
「ゲーム終わったらな」
寺田が嬉しそうに笑った。
「うん」
その顔を見て、またちょっと恥ずかしくなる。
中に残った熱が、じんわりと疼いた。
モニターが点いた。
『福島さん』
「はい」
『ゲームを続けますか?』
俺は身体を起こした。
ここで降りる。
そんな選択が頭に浮かぶより先に、答えが出た。
「やる」
『続行ですね』
「ああ」
俺はベッドから降りる。
まだ脚が少し震えている。
「ここで止めるかよ。次こそ当てる」
寺田が優しく笑った。
「頑張って。……でも、また俺を選んでもいいんだからな」
「次は見た目だけで決めねえからな」
「勉強した?」
「した」
服を整えて、ドアへ向かう。
開ける前に、少しだけ振り返った。
「寺田」
「何?」
「……お前、紛らわしすぎ。……優しくしすぎ」
「褒め言葉?」
「違う。……でも、ありがとな」
寺田の低く優しい笑い声を背中で聞きながら、俺は部屋を出た。
次はちゃんと話す。
見た目だけじゃ分からないなら、話して中身を見ればいい。
そう思いながら、俺は五人の待つラウンジへ戻った。
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