1 / 2

第1話 これだろ

「うわ……マジかよ」 船に乗った瞬間、俺は思わず声を漏らした。 一泊二日の大型クルーザー。 広いラウンジには革張りのソファが並び、奥にはバー。 大きな窓の向こうでは、夕方の海がゆっくり流れている。 そして、その真ん中に六人。 全員、めちゃくちゃレベルが高い。 今回のゲームは単純だ。 この六人の中にいる、本物の女性を当てる。 フリータイム中は自由に話していい。 時間が来たら一人を指名する。 当たれば俺の勝ち。 外したら相手の勝ち。 判定後は二人きりの部屋へ移り、勝った側が主導する大人のご褒美つき。 ネットで見つけたときは、 ――こんなの参加するしかないだろ。 と思った。 童貞卒業。 しかも豪華クルーザー。 最高じゃん。 『それでは、ゲームを開始します』 船内スピーカーから主催者の声が響いた。 『公平を期すため、候補者の皆さんにはチョーカー型のボイスチェンジャーを装着していただいています。また、ゲーム中は名字のみでお呼びください』 六人の首元を見る。 全員、細い黒いチョーカーをつけていた。 なるほど。 声で分かったら簡単すぎる。 『寺田さん、桃井さん、鶴田さん、玉井さん、森本さん、桜井さん。以上六名です』 俺は順番に見る。 その中で、一人。 どう考えても目立つ人がいた。 寺田。 淡い色のワンピース。 長い髪。 細い肩。 上品な立ち方。 俺と目が合った瞬間、ふわっと笑った。 「……」 いや。 これだろ。 俺、もう分かったかもしれない。 **** 船が港を離れると、フリータイムが始まった。 俺はビールを片手に、六人と少しずつ話した。 桃井は小柄でかわいい。 鶴田は背が高くて、顔がやたら整っている。少女漫画の王子様みたいだ。 玉井は華やか。 森本は落ち着いている。 桜井は服からして目立つ。フリル服。 でも、俺の中では寺田が圧倒的だった。 バーの前で炭酸水を飲んでいる寺田のところへ行く。 「それ、酒じゃないんだ」 「うん。最初から酔ったらもったいないかなって」 「真面目だな」 「福島さんは?」 「ビール」 「似合う」 「何が?」 寺田がくすっと笑った。 かわいい。 マジでかわいい。 「寺田って、普段何してんの?」 「接客の仕事」 「へえ。忙しい?」 「日によるかな。福島さんは?」 「普通の会社員」 「仕事、好き?」 「日による」 「同じじゃん」 二人で笑う。 話していて楽だ。 変に俺を試す感じもない。 寺田がグラスを置いた。 「福島さんって、ちゃんと人の話聞くんだね」 「普通だろ」 「さっき他の人とも話してたけど、質問したあとちゃんと返事待ってたから」 「何それ」 「いいなって思っただけ」 さらっと言われて、少し照れた。 「……そういうの、急に言うなよ」 「ごめん」 寺田が笑う。 その笑い方も自然だ。 作ってる感じもしない。 しばらくして寺田が俺のグラスを見る。 「緊張してる?」 「してない」 「ほんと?」 「なんで」 「さっきから、何回もこっち見てるから」 「……見てた?」 「うん」 ちょっと恥ずかしくなって、ビールを飲む。 「ゲームだから。誰が女か見ないといけないし」 「そういうことにしとく?」 「何だよ」 寺田がまた笑う。 やっぱりかわいい。 俺の中で、答えがほぼ決まった。 しばらくして、ラウンジにチャイムが鳴る。 『福島さん。指名の時間です。選択室へお越しください』 来た。 俺は立ち上がる。 寺田を見ると、向こうもこっちを見ていた。 俺はちょっとだけ笑って、その場を離れた。 **** 選択室にはソファとモニターだけが置かれていた。 ドアが閉まる。 『第一回の指名を行います。選ぶ相手の名字をお願いします』 「寺田」 迷う必要もなかった。 『寺田さんですね』 「ああ」 『決め手は?』 「見た目。あと話した感じ」 俺はソファにもたれた。 「たぶん当たりだと思う」 『分かりました。寺田さんに入室していただきます』 少しして、ドアが開く。 寺田が入ってきた。 「私だったんだ」 「ああ」 「自信ある?」 「かなり」 「そんなに?」 「最初に見たときから、お前だと思ってた」 寺田が向かいに座る。 「じゃあ、当たってるといいね」 「当たってるって」 俺はちょっと得意になった。 これで童貞卒業。 相手はこんな美人。 運よすぎだろ、俺。 『それでは、判定を行います』 寺田が立ち上がった。 髪へ手を伸ばす。 するっと外す。 「……え?」 短い髪が現れた。 続けて服を整え直す。 細く見えていた肩の線が、急に男っぽくなる。 「…………え?」 寺田がチョーカーを外す。 さっきまでの声よりずっと低い声で、 「俺、男」 と言った。 「…………」 「外れ」 「うそだろ!?」 俺は立ち上がった。 「お前、その肩どこに隠してたんだよ!」 「着痩せするって言われる」 「着痩せってレベルか!」 寺田が声を上げて笑った。 普通に男の声。 普通にいい男。 さっきまで美人だったのに。 『判定は不正解です。このラウンドは寺田さんの勝利となります』 寺田が俺を見る。 でも、すぐ奥のドアへ向かわない。 「……そんなにショック?」 「そりゃそうだろ。絶対当たったと思ってた」 「俺は、ちょっとうれしいけど」 「は?」 「選んでくれて」 俺は寺田を見る。 「なんで」 寺田が少し照れたみたいに笑った。 「ラウンジで話してるときから、福島のことかわいいと思ってたから」 「……俺を?」 「うん」 「どこが」 「真面目にゲームやってるところとか。質問しても、ちゃんと返事聞いてくれるところとか」 「普通じゃん」 「そういう普通のところがいい」 また照れる。 何だよ。 男に言われてるのに。 「それに」 「まだあんの?」 「俺を選んでくれたら、うれしいなって思ってた」 「……」 「抱いてみたかったし」 さらっと言う。 俺は数秒固まった。 「お前……」 「何」 「正体バレたら急に言うことすごいな」 寺田が笑う。 「もう隠す必要ないから」 腹立つ。 でも。 “罰ゲームだから仕方なく”って感じじゃない。 こいつ自身が俺を選びたかった。 そう思ったら、さっきより妙に緊張した。 「じゃ、行こうか」 「……分かったよ」 「福島」 「何」 「選んでくれて、ありがとな」 「……おう」 それだけ答えて、俺は寺田の後についていった。 **** 寝室に入ると、さっきまでより急に寺田が近く感じた。 女だと思って見ていた相手が、今は完全に男。 首も。 肩も。 腕も。 近くで見るほど分かる。 「何見てんの?」 「……別に」 「さっきまであんなに自信満々だったのに」 「一回外しただけだろ」 「じゃあ余裕?」 「当たり前」 「そっか」 寺田が優しく笑うと、そのままゆっくり距離を詰めてきた。 俺はベッドの縁に腰を下ろされ、その大きな手に顎をそっと支えられる。 「福島……やっぱりかわいいな」 「男にかわいいって言うなよ……」 「かわいいから言ってるんだ。ちゃんと見てくれよ」 低い声が耳元に落ちる。 寺田は俺のシャツのボタンを一つずつ丁寧に外しながら、唇を首筋に這わせた。 熱い吐息が肌を撫で、思わず肩が震える。 「力入ってるよ。……怖い?」 「だって……近いんだよ」 「俺が?」 「お前以外誰がいるんだよ……っ」 「ふふっ。かわいい」 「それ禁止」 「無理。甘やかしたくなるんだ、福島のこと」 服を脱がされ、素肌が夜気に晒される。 寺田は自分の服も脱ぎ捨てると、俺を優しくベッドに押し倒した。 体重を乗せすぎないように気を配りながら、太ももを俺の両脚の間に割り込ませてくる。 「福島、ちゃんと俺を見て」 「……見てる」 「いい子だ。怖がらなくていい。全部俺がしてあげるから」 熱い舌が乳首を転がし、指がもう片方を優しく摘まむ。 甘い刺激に背中が反り、思わず吐息が漏れた。 「んっ……」 「無理に喋らなくていいよ。顔見れば分かるから」 寺田の手がゆっくりと俺の勃起を包み込み、親指で先端を撫でる。 先走りが糸を引き、くちゅ、という卑猥な音が部屋に響いた。 「あっ……ん、そ、そこ……」 「ここ、弱いんだ。教えてくれてありがとう」 指が丁寧に裏筋をなぞり、時折ゆっくりと上下に扱く。 焦らすわけでもなく、ただ優しく、丁寧に。 俺の反応を一つ一つ拾いながら、寺田は満足そうに微笑んでいた。 「福島の声、好きだよ。もっと聞かせて」 「うるせ……っ、んあっ……!」 指が一本、ゆっくりと後ろの入り口を押し広げてくる。 ぬるりとした感触に身体が強張るが、寺田はすぐに額を俺の額に寄せ、低い声で囁いた。 「大丈夫。俺がいる。痛かったらすぐ言うんだ」 「……っ、う、ん……」 指が中で優しく屈伸し、壁を探るように動く。 二本目が入ったときには、すでに甘い疼きが腰の奥に広がっていた。 「んぁ……っ、ふ、深……」 「ここ、感じてるね。いい子」 指がゆっくりと抜き差しされ、ぐちゅぐちゅと水音が立つ。 俺の脚は自然と開かれ、腰が小さく跳ねていた。 「も、もう……いい……入れ……」 「急がなくていい。全部俺に任せて」 「はやく……お願い……寺田……」 「わかった。あせらないで」 寺田は最後まで急がなかった。 俺を抱いたまま、少しずつ身体を重ねてくる。 深くなるたびに、「大丈夫」とでも言うように背中を撫でられた 。 「んあっ……! あ、熱……い……」 「福島の中、すごく柔らかい。締めつけてくる……気持ちいい」 一気にではなく、一寸ずつ。 寺田は俺の表情を凝視しながら、優しく腰を沈めていく。 根元まで埋まった瞬間、二人の吐息が重なった。 「全部入ったよ。……苦しくない?」 「……ん、大丈夫……あったかい……」 「よかった。じゃあ、動くね」 ゆっくりと引き抜かれ、また奥まで押し込まれる。 ぐり、と甘い場所を擦られるたび、甘い電流が背筋を駆け上がる。 「あっ……あっ、そこ……んぁっ……!」 「ここ? わかった。大事にしてあげる」 寺田は腰を深く沈め、円を描くように優しく擦り上げてくる。 激しく突くのではなく、じっくりと甘い芯を抉るように。 俺の中を丁寧に味わいながら、時折唇を重ね、舌を絡めてくる。 「福島……かわいい声。……もっと出していいよ」 「んあっ……! だ、だめ……そんな……優しくされたら……ひうっ……!」 「いいんだ。俺に甘えて。全部受け止めるから」 ピストンのリズムが少しだけ速まる。 ずぽ、ずぽ、と湿った音が部屋に響き、結合部から白く泡立ったものが溢れ始める。 寺田の手が俺の乳首を優しく摘まみ、同時に腰を深く突き上げた。 「あひっ……! んぁ、奥……っ、だめっ……!」 「だめ、じゃないだろ。気持ちいいって顔してる」 「し、してない……っ、んあっ……!」 「嘘だよ。ほら、こんなに熱く締めてくる。……福島、もっと甘えていいよ」 「っ……わ、わからない……」 「正直に。俺は好きだよ。福島のこと、すごく」 その言葉と同時に、深く抉る一突き。 甘い場所を的確に押し潰され、俺の視界が白く霞む。 「ひぅうっ……! あっ、あっ、あっ……! そこばかり……んぁあっ……!」 「いいよ。声、出して。俺だけに聞かせて」 「寺田……っ、んあっ……! もっと……深く……っ」 「わかった。いい子だね」 寺田は俺の腰を優しく固定し、ゆっくりと、しかし容赦なく甘い芯を責め立てる。 ずん、ずん、と奥を突かれるたび、甘い痙攣が内側で広がっていく。 「んぁっ……! だ、だめ……きちゃう……っ」 「いいよ。イッて。俺ので、思い切り」 「あっ……あっあっ……! いく……っ、いくっ……!」 甘い絶頂が腰の奥から溢れ出す。 びくびくと身体を痙攣させながら、俺は白濁を自身の腹に吐き出した。 寺田も俺を抱き締めたまま息を詰め、少し遅れて身体を震わせた。 「福島……すごい。締めつけて……全部出すよ」 「んぁあっ……! 熱い……っ、中に……いっぱい……っ」 どぷどぷと脈打つ感触が続き、熱い精が俺の奥を満たしていく。 最後まで、抱く腕だけは優しかった。 **** しばらくして。 寺田は抜き去らずに、そのまま俺の上に覆いかぶさったまま、優しく額を寄せてきた。 「……最悪」 「何が?」 「俺、変な声出してた?」 「いっぱい。かわいかったよ」 「忘れろ」 「無理。大事に覚えておく」 「忘れろってば……!」 寺田が低く笑う。 俺は枕へ顔を押しつけたが、中に残る熱い感触がなかなか消えない。 初めて男としたセックス。 こんなに気持ちのいいものだとは知らなかった。 童貞喪失の前に、アナル処女喪失。 少し複雑な思いをしている俺に、寺田は水を渡してきた。 「はい」 「……ありがと」 受け取って飲む。少しして、寺田が言う。 「福島」 「何」 「俺、本当に選んでもらえてよかった」 「まだ言う?」 「だって楽しかったし。……また、こうやって甘やかしたい」 「……」 「ゲーム終わっても、また話したい」 俺は寺田を見る。 からかってる感じじゃない。 普通に、優しく言ってる。 「……まあ」 「うん」 「ゲーム終わったらな」 寺田が嬉しそうに笑った。 「うん」 その顔を見て、またちょっと恥ずかしくなる。 中に残った熱が、じんわりと疼いた。 モニターが点いた。 『福島さん』 「はい」 『ゲームを続けますか?』 俺は身体を起こした。 ここで降りる。 そんな選択が頭に浮かぶより先に、答えが出た。 「やる」 『続行ですね』 「ああ」 俺はベッドから降りる。 まだ脚が少し震えている。 「ここで止めるかよ。次こそ当てる」 寺田が優しく笑った。 「頑張って。……でも、また俺を選んでもいいんだからな」 「次は見た目だけで決めねえからな」 「勉強した?」 「した」 服を整えて、ドアへ向かう。 開ける前に、少しだけ振り返った。 「寺田」 「何?」 「……お前、紛らわしすぎ。……優しくしすぎ」 「褒め言葉?」 「違う。……でも、ありがとな」 寺田の低く優しい笑い声を背中で聞きながら、俺は部屋を出た。 次はちゃんと話す。 見た目だけじゃ分からないなら、話して中身を見ればいい。 そう思いながら、俺は五人の待つラウンジへ戻った。

ともだちにシェアしよう!