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第2話 今度こそ
ラウンジへ戻ると、窓の外が夕焼けに染まっていた。
船はもう港からかなり離れている。
残っているのは五人。
桃井、鶴田、玉井、森本、桜井。
俺はバーで水を受け取った。
さっきまで寺田といたせいか、今は酒よりこっちがいい。
身体の芯に残る熱が、まだじんわりと疼いている。
「……よし」
一回外した。
でも、理由は分かってる。
見た目だけで決めたからだ。
寺田はどう見ても美女だった。
そこに引っ張られた。
次はちゃんと話す。
普段何してるのか。
何が好きなのか。
話していて変なところがないか。
そこまで分かれば、今度こそ当てられる。
「福島さん」
声をかけられて振り向いた。
桃井だった。
小柄で、柔らかい髪。
ゆったりしたシャツに細身のパンツ。
寺田みたいな完璧なレディースファッションじゃない。
男にも女にもいそうな格好だ。
「一人で反省会?」
「してねえよ」
「してる顔だったけど」
「どんな顔だよ」
桃井が笑う。
「寺田さん、外れだった?」
「……人数減ってるんだから分かるだろ」
「やっぱり」
「笑うな」
「ごめん。福島さん、悔しそうだから」
また笑う。
その笑顔が、妙に自然だった。
****
桃井とは、そのままデッキへ出た。
夕方の風が気持ちいい。
遠くの街が少しずつ小さくなっている。
「桃井って、普段何してる?」
「服屋で働いてるよ」
「店員?」
「うん」
「だから服好きなんだ」
「まあね。福島さんは?」
「会社員」
「何の仕事?」
「営業」
「大変そう」
「相手による」
「今日も営業してる?」
「誰に」
「私たちに」
「してねえよ!」
桃井が声を上げて笑った。
俺もつられて笑う。
話しやすい。
こっちが何か聞けば普通に返ってくるし、向こうからも聞いてくる。
「休みの日は?」
「映画見たり、買い物行ったり」
「何見る?」
「最近はホラー」
「一人で?」
「一人」
「怖くない?」
「福島さん、怖いの苦手?」
「別に」
「今ちょっと嫌そうだった」
「してねえ」
「した」
「してねえって」
桃井がまた笑う。
口を開けて、楽しそうに。
作ってる感じがしない。
俺は少し見入ってしまった。
「何?」
「いや」
「また見てる」
「ゲームだから」
「ほんとに?」
「ほんとだって」
「じゃあ、ちゃんと見て」
桃井が俺の方を向く。
俺は逆に困った。
「……近い」
「福島さんが見てたんでしょ」
「そうだけど」
「どう?」
「何が」
「私」
「自分で聞く?」
「聞く」
桃井が待っている。
俺は少し迷って、
「……かわいいんじゃない」
と言った。
桃井がぱっと笑った。
「ありがと」
その笑顔。
やっぱり。
自然だ。
「桃井って、よくかわいいって言われるだろ」
「言われるよ」
「やっぱり」
「福島さんも言われそう」
「俺は最近やたら言われる」
「へえ」
「何その顔」
「似合ってると思って」
「やめろ!」
桃井がまた笑った。
俺も笑う。
そのまま、しばらくどうでもいい話をした。
仕事。
映画。
最近食べたもの。
船から見える景色。
話題が切れても、気まずくならない。
寺田のときは見た目が決め手だった。
でも今は違う。
ちゃんと話してる。
笑い方も見た。
受け答えも自然。
(……桃井だ)
今度はかなり自信があった。
****
軽い食事が始まってからも、俺は他の四人と話した。
玉井は華やかで、何をしても妙に絵になる。
森本は落ち着いている。
桜井は服が派手で、本人もよく喋る。
鶴田は……。
短い髪。
長身。
顔がやたらきれい。
少女漫画の王子様みたいな見た目だ。
でも今はいい。
まだ五人いる。
俺は焦らず、一番自然に感じた相手を選べばいい。
チャイムが鳴る。
『福島さん。指名の時間です』
桃井と目が合った。
桃井が小さく手を振る。
俺も軽く手を上げた。
今度こそ。
****
選択室。
『第二回の指名を行います。選ぶ相手の名字をお願いします』
「桃井」
今回は少し考えてから答えた。
『桃井さんですね』
「ああ」
『決め手は?』
「話した感じ」
俺はソファへ座る。
「見た目だけじゃなくて、ちゃんと話した。笑い方も自然だったし」
今度は筋が通ってる。
『分かりました。桃井さんに入室していただきます』
ドアが開く。
桃井が入ってきた。
「私だったんだ」
「ああ」
「自信ある?」
「ある」
「前も自信あったんじゃない?」
「今回は違う」
「何が?」
「ちゃんと話した」
桃井が笑う。
「そっか」
俺はその笑顔を見て、さらに安心した。
やっぱり。
こいつだ。
『それでは、判定を行います』
桃井がチョーカーを外した。
声が落ちる。
「…………」
桃井が髪をかき上げる。
さっきまでと同じ顔なのに、急に男に見える。
にっと笑った。
「俺、男」
「……」
「残念」
「またかよ!!」
俺は立ち上がった。
桃井が腹を抱えて笑う。
「そんなに!?」
「お前、めちゃくちゃ自然だったじゃん!」
「普通に喋ってただけだよ」
「あの笑い方は!?」
「笑い方?」
「かわいかっただろ!」
桃井が一瞬止まる。
それから、にやっとした。
「福島さん、俺のことそんなにかわいいと思ってたんだ」
「そこ拾うな!」
「うれしい」
「何でだよ!」
「俺も福島さんに選ばれたかったから」
「……え?」
桃井はまだ笑っている。
でも、今度の言い方は軽口だけでもなさそうだった。
「デッキで話してて、楽しかったし」
「……」
「ちゃんと俺の話聞くし、一緒に笑ってくれるし」
「普通だろ」
「そういうの、結構好き」
寺田と同じことを言われて、少し困る。
桃井がさらに近づいた。
「それに、福島さんって反応かわいいし」
「結局そこかよ!」
「そこも」
「そこもって言うな」
桃井が笑う。
「だから、俺だったらいいなって思ってた」
「何が」
「選ばれるの」
「……」
「抱いてみたかったし」
まただ。
こいつら、正体バレると急にすごいこと言う。
「さらっと言うなよ」
「嫌だった?」
「そういう聞き方すんな」
「じゃあ行こ」
「切り替え早っ」
桃井が奥のドアを開ける。
俺はため息をついて、その後を追った。
****
寝室へ入ってからも、桃井はずっと楽しそうだった。
「福島さん」
「何」
「俺のことかわいいって思ってたんだ」
「まだ言う?」
「うれしかったから」
「忘れろ」
「無理」
「お前らそればっかりだな」
「お前ら?」
「あ、いや」
寺田のことまで話す必要はない。
桃井がベッドの端へ座る。
「福島さん」
「何」
「こっち」
「偉そう」
「勝ったの俺だから」
「……それ言われると弱いな」
桃井がにやっと笑うと、俺の手首を軽く引いて隣に座らせた。
指先がシャツの裾に滑り込み、ゆっくりと肌を撫で上げる。
「力、入ってるよ」
「入るだろ……」
「何で?」
「お前が楽しそうだから腹立つ」
「だって楽しいし。福島さんを焦らすの、最高に好き」
「性格悪いな」
「そう? でも好きでしょ、こういうの」
唇が首筋に落ち、熱い舌がゆっくりと筋をなぞる。
甘い刺激に肩が跳ね、吐息が漏れた。
「んっ……」
「ほら、もう反応してる」
シャツを丁寧に脱がされ、胸が露わになる。
桃井は俺の乳首を指先で軽く弾き、すぐに口を寄せて吸った。
ねっとりとした舌が転がし、甘い疼きが腰に落ちる。
「あっ……ん、そ、そこ……」
「弱いとこ、すぐバレるね」
指が下腹部を滑り、指がそのまま腰の後ろへ回る。
くちゅ、と甘い音を立てる。
「こんなに濡れて。……欲しがってる?」
「してねえ……っ」
「嘘。ほら、身体の方は正直じゃん 」
指が一本、ゆっくりと入り口を押し広げてくる。
ぬるりと沈み込み、中を優しく探るように動く。
二本目が入ったときには、甘い疼きがはっきりと広がっていた。
「んぁっ……ふ、指……っ」
「感じてるね。いい声」
ぐちゅぐちゅと水音を立てながら指を抜き差しし、甘い芯をこねるように刺激する。
すぐに腰が小さく跳ね始めていた。
「も、もう……いい……」
「いい? 何が?」
「入れ……て……」
「じゃあ、もう少し待とうかな 」
「……入れて、お願い……」
「しょうがないな、よし」
熱い先端が入り口に押し当てられる。
にゅるり、と頭部が沈み込み、ゆっくりと中を押し広げていく。
根元まで埋まった瞬間、甘い満ち足りた感触が腰の奥に広がった。
「んあっ……!」
「福島さんの中、締めつけてくる。……気持ちいい」
桃井は優しく腰を沈め、ゆっくりと動かし始めた。
ぐりぐりと甘い場所を擦られ、身体が敏感に反応する。
「あっ……あっ、そこ……んぁっ……!」
「ここ? わかった」
ねっとりとした腰の動きが続き、結合部から淫靡なおつゆが滴る。
ずぽ、ずぽ、と湿った音が部屋に響く中、桃井は突然動きを止めた。
「……っ?」
「ちょっと休憩」
「は……?」
さっきまでじわじわ深まっていた感覚が、急に途切れる。
熱いものが中に埋まったまま動かず、疼きだけが残る。
「何で……!」
「まだ早いよ。福島さん、すぐイキそうだったし」
「いや、続けろ……っ」
「だめ。焦らさないと」
桃井は笑いながら、ゆっくりと引き抜いた。
ぬぽっ、と音を立てて離れる感触に、俺の腰が勝手に追ってしまう。
「……おい」
「何?」
「なんで止めた」
「休憩って言ったでしょ」
腹立つ。
身体だけ置いていかれたみたいで、落ち着かない。
桃井は平気そうに俺を眺め、指先で俺の先端を軽く弾いた。
「ほら、こんなに脈打ってる。……我慢できてる?」
「うるさい……っ」
少し経って、また桃井が近づいてくる。
今度はさっきより深く、一気に奥まで沈めてきた。
「んあっ……! ふ、深い……っ」
「福島さん?」
「何でもない……っ」
「ほんと? 声、甘くなってるよ」
擦れるたび、息が乱れる。奥へ届く感じが強くなって、
「ちょ……っ、待っ……」
と言ったところで。
また止まった。
「…………」
桃井が離れる。
熱いものがすっぽり抜け、空虚感が広がる。
俺は数秒固まった。
「おい」
「何?」
「また?」
「うん」
「何で!」
「休憩」
「さっきしただろ!」
「まだ足りない。福島さんがもっと欲しがるまで」
「誰が決めたんだよ!」
桃井がにやっと笑う。
分かってる。絶対わざとだ。
「性格悪っ」
「福島さん、怒ってる?」
「怒ってる」
「じゃあ休もうか」
また離れようとする。
俺の手が勝手に桃井の腰をつかんだ。
桃井が止まる。
「何?」
「……」
言いたくない。絶対こいつの思うつぼだ。
「福島さん?」
「……抜くな」
自分で言って、恥ずかしくなる。
桃井が嬉しそうに笑った。
「そのまま離してくれないなら、続けようかな 」
桃井が戻ってくる。
今度は、止まる前よりずっと深く、ゆっくりと中を埋めてきた。
「んぁあっ……! ふ、ふか……いっ」
「福島さん」
「聞くな……っ」
「まだ何も聞いてない。でも、さっきより素直だね」
「うるさい……♡」
声が甘くなった。桃井が少し笑う。
「今のかわいい」
「言うな……♡」
じわじわと動き出し、甘い芯を抉るように擦ってくる。
ずん、ずんと奥を突かれ、身体が勝手に腰を浮かしてしまう。
「あっ……あっ、そこ……んぁっ……!」
また奥へ届く。
身体が慣れたところへ、急に桃井が止まった。
「……」
今度は俺の方が先に反応した。
「おい……!」
「何?」
「……やめんな」
桃井が黙る。
「何?」
「いや……」
「笑うな」
「笑ってないよ。だって、福島さんから言った」
「……うるさい♡」
もう、さっきほど意地を張れない。
桃井が再び動き出す。
少し擦れるだけで、身体が勝手に追う。
自分でも分かる。
止まってほしくない。
「桃井……っ」
「ん?」
「また止まったら……」
「止まったら?」
「……怒る♡」
桃井が吹き出した。
「かわいい……追ってくるなら、今度は止めない 」
「最初からそうしろ……♡」
そこから一気に余裕がなくなった。
深くなるたび、声が短くなる。
「あっ、あっ……! 桃井……っ」
「なに?」
「それ……♡ 奥……っ」
「また止めよっか?」
「聞くな……♡ んぁあっ……!」
ねっとりと抉られ、甘い痙攣が内側で広がる。
ずぽずぽと激しくピストンされ、結合部から白濁が泡立って溢れてくる。
「っ……だめ♡ もう……」
「福島さん」
「なに……♡」
「もう限界?」
「知らな……♡ でも……止めんな……っ」
言葉が切れる。
息しか出てこない。
桃井は腰を固定し、深く沈めたまま擦り上げてきた。
「桃井……っ」
「うん」
「止めんな……♡ お願い……っ」
もう、それしか言えなかった。
何度も途切れさせられた分、今度は離れられる方が嫌だった。
「福島さん、いい子。……イッていいよ」
「んぁあっ……! いく……っ、いくっ……!」
甘い絶頂が腰の奥から溢れ出す。
びくびくと身体を痙攣させながら、脳内に快感物質が広がった。
同時に桃井も低く喘ぎ、とくとくと熱い精を奥深くに注ぎ込んでくる。
「んぁあっ……! 熱い……っ、中に……いっぱい……っ」
「福島さん……すごい締めつけ。……全部出すから」
脈打つ感触が続き、熱いものが俺の奥を満たしていく。
溢れ出した白濁が結合部からゆっくりと太ももを伝った。
****
しばらくして。
俺はベッドに仰向けになっていた。
まだ中に埋められたまま、余韻で小さく痙攣している。
桃井が隣で笑っている。
「……何」
「いや」
「何だよ」
「福島さん、素直になるとかわいいなって」
「忘れろ」
「無理。‘行くな’とか‘止めんな’とか、ちゃんと覚えてる」
「言うな!」
俺は身体を起こそうとして、中に残る熱い感触に息を詰めた。
桃井から水を受け取る。
「……ありがと」
「どういたしまして」
一口飲んでから、桃井を睨む。
「お前、ほんと性格悪い」
「そう?」
「途中で何回止めた」
「数えてない。でも効果はあったでしょ」
「数えろ!」
「でも福島さん、最後は自分から‘止めんな’って追ってきた」
「言うな!」
「‘行くな’も」
「それも言うな!」
桃井が声を上げて笑う。
腹立つ。
でも。
俺も少し笑ってしまった。
「……楽しかった?」
桃井が聞く。
俺はグラスを見る。
「まあ」
「まあ?」
「……悪くはなかった」
「へえ」
「何」
「うれしい。焦らされて追ってくる福島さん、最高だった」
「大げさ……」
「だって俺、ほんとに福島さん選んでくれたらいいなって思ってたし」
また、さらっと言う。
「ゲーム終わっても会っていい?」
俺は桃井を見る。
男。
もう完全にそう見える。
それでも。
「……まあ」
「いい?」
「気が向いたらな」
桃井が嬉しそうに笑った。
その顔を見て、少しだけ変な感じがした。
女だと思っていたときと同じ笑顔。
今は男だと分かっている。
それでも、やっぱりかわいいと思う。
「……何?」
「何でもない」
モニターが点いた。
『福島さん』
「はい」
『ゲームを続けますか?』
俺は水を置いた。
「やる」
すぐ答えた。
『続行ですね』
「ああ。次こそ当てる」
桃井が笑う。
「今度は何で見分けるの?」
「もう笑顔だけじゃ決めねえ」
「じゃあ?」
俺は少し考える。
「もっと何気ないところ」
「何気ないところ?」
「座り方とか、飲み物取るときとか。そういうの」
「へえ」
「喋ってるときは作れるだろ。でも普段の動きなら分かる」
「なるほどね」
「今度こそ」
俺は立ち上がった。
脚がまだ少し震え、中に残った熱が疼く。
ドアの前まで行く。
「福島さん」
振り返る。
桃井がベッドの上から笑っていた。
「また遊ぼうね。……次はもっと焦らしてあげる」
俺は少しだけ迷って、
「……おう」
と答えた。
それからドアを開ける。
次は、話してるときだけじゃ足りない。
もっと何気ないところを見る。
そうすれば、きっと分かる。
俺はそう考えながら、四人の待つラウンジへ戻った。
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