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第81話
ようやく撮影が始まるがやはり上手くいかない。
流石の俺も心が折れそうになる。大体何で俺だけがNGの原因になるのか納得がいかない。
セリフを間違うのは関山だし立ち位置を間違うのも関山だ。
堪忍袋の尾が切れそうな時に監督から例のシーンを振りでなく本当にしてくれという指示が飛ぶ
かなり嫌で顔に出ていたのか監督から声がかかる
「相馬くん。藍乃ちゃんだから緊張するのもわかるけど大丈夫だよ。藍乃ちゃんの動く通りにやって。あの関山 藍乃ちゃんと役とはいえキスできるなんて君は本当にラッキーだね」
緊張じゃねぇし。ラッキーじゃねぇし。気持ち悪いし。
「藍乃ちゃんの許しも出たことだし思い切りやって」
「監督…ちょっと役作ってきていいですか?これ以上迷惑かけたく無いので…関山さんの時間を僕ごときがこれ以上長く取ってしまっては申し訳ないので5分だけ時間下さい。お願いします」
頭を下げるなんて嫌だったがこのまま入るのはしんどい…そう思い出来るだけ自分を下にしながら言葉を繋いだ。
「藍乃ちゃんいい?」
「構わないですよ」
「申し訳ありません…少し失礼します」
ロケバスへ1人戻り朝陽さんに電話をかける
「せいくん。終わったの?」
「関山が2時間遅れで入って待たされた挙句NG俺のせいにされちゃって…今から例のシーンなんですけど関山が許可を出したからキス本当にすることになっちゃって…監督から本当にできるよ。ラッキーだねとか言われた…やっぱり嫌すぎて朝陽さんに癒して欲しくて電話をしちゃいました」
「それは災難だね…頑張ったら一杯甘えていいからもう少し耐えるんだよ」
「はい」
「いってらっしゃい」
名残惜しかったが渋々電話を切りもう一度役に入り込む。関山じゃなくて千歌子…煌太は千歌子が好きで堪らない…千歌子と煌太で起こる出来事であって相馬 星夜じゃない…大丈夫やれる…
とにかく自分に言い聞かせながら思いを巡らせる。そして時間が過ぎた
「すいませんでした。お願いします」
やっとOKが出た。ホッとして帰り支度をしていると関山がすり寄って着た。2つの大きな膨らみを腕へ押し付け上目遣いで見つめてくる。逸らす訳にも行かず見つめ返す。
「お疲れ様でした。僕は体調が優れないのでお先に失礼します」
「大丈夫?私この後空いてるから看病してあげようか?」
「いいえ。関山さんもお疲れでしょうしご遠慮します」
「でも心細いでしょ?私も具合が悪い時心細くなっちゃうから。そばにいてあげる」
「いえ。結構です。関山さんの負担になりたく無いので。でも僕は幸せ者ですね。こんなに関山さんに心配してもらえるなんて。またご一緒出来るといいですね。では失礼します」
我ながら気持ち悪いセリフに嫌悪感を覚えた
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