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第305話
「久しぶり。急でごめんな。どうしてもお前が良くて。引退したってわかってたけど無理言った」
「いや。とりあえず聞かせて?その後で決めてもいい?」
「わかった」
やはりいい曲だった
隅田は子供が生まれてからさらに能力が上がっていた
今まで感じられなかった母性と言うものも相まって以前より柔らかい印象の曲まで書けるようになっていた
今回かいてくれたのは慈愛に満ちた曲だった
このまま埋もれるのは惜しい…
「俺じゃない誰かは…」
「ダメ。これは絶対お前じゃないとやだ」
「わがまま…」
「そんなのわかってるでしょ。お前じゃないと深みが出せない」
「…」
「ねぇ…さっき華陵院先輩に会ったんだけど雪代さんに相談するってどういうこと?」
「わかんね…何か勝手に言葉に出てた…変なプライドかな…別れたことも言えなかった」
「あのさ…多分だけど先輩まだお前のこと…」
「いやそれはないだろ…別れて随分たったし…」
「そうかな…少なくとも俺にはそう見えたけど?お前はどうなの?」
「…さっきさ…他の男に押し倒されてたんだよあの人」
「はぁ?また変なのに好かれてるの?」
「そうみたい…何かそれ見たら苛ついて…」
「…あのさ…お前は結局先輩のこと忘れてないんだよ。雪代さん色々あったから…情で…」
「俺はちゃんとカイを愛してたし…離れている間もカイのことしか思い出さなかったし…だからそんなはず…」
「雪代さん何か感じてたんじゃないの?だからお前から離れたんじゃ…」
「違う…俺より如月さんを選んだんだ…如月さんといた方が…だから…」
「お前さ今どんな顔してると思う?」
「え?」
「はぁ…無自覚?お前の顔…前に…高校時代に…華陵院先輩と別れたでしょ?お前の勘違いのせいで。そのときと同じ顔してる。好きで好きでたまらないって顔。また一緒にいたいって顔」
「気のせいだろ」
「俺は人の顔色見るの得意だよ。知ってるでしょ?」
確かに隅田は昔からよく人の気持ちに気付ける奴だ…でも…俺は…カイが確かに好きだった…?本当に愛してた?…本当に朝陽さんのこと過去の人になってた?…
自分の気持ちがもう見えなくて頭を抱えた…
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