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金のライオン
山王雷太は考えていた。
あの時なぜ、雪の手を取らなければいけないなどと思ってしまったのか。
あの身軽ですばしっこい身のこなし。林を抜けることなど造作もないに決まっている。
それなのにどうしてかわからないが、執拗に追いかけ、あの小さな手を自分に繋がせたいと思ってしまったのだ。
廊下の隅で見付けた黒い耳の兎は、小さく体を丸め、ぷるぷると震えながら怯えていた。
それが追いかけられたからなのか、それとも自分が怖くて震えていたのか。
兎は臆病で寂しがりだという俗説は案外本当のことなのかもしれないと思った。
丸い大きな瞳に筋肉がつきにくい体質なのだろうとわかる細い体。それに、あの匂い。
綿菓子のような甘い匂い。
ずっと嗅いでいたいくらい香しかった。
耳の根本をくすぐると甘い声をもらし体を捩り、尻尾を弄ると気持ちよさそうに蕩けた表情をしてみせた。
ここは全寮制の男子校だ。
男子校と言えど雪のような生徒が女の代わりとして狙われやすいということも知っている。
もし雪がそんな目にあっていたとしたら……。
「……許せん」
雷太の呟きに、隣で資料作りをしていた肉食組生徒会書記である紅牙狼(クレナイガロ)がびくっと体を動かして雷太から少し距離を取る。
「何ですか突然。許せんって」
「あぁすまん。こっちの話だ」
「何か上の空って感じに見えますけど……。よし、これで最後っと。体育祭の進行表案、ここに置いておきますね」
「あぁ」
雷太は紅のまとめた資料を一部手に取り書面に目を走らせた。
ざっと見て、誤字脱字のチェックはできるが内容にまで気が回らない。
あることが気になって気になって気になりすぎて、集中できないのだ。
その原因は黒兎雪にあった。
「なぁ……」
「なんでしょう」
「紅は草食組の黒兎雪を知っているか?」
「はい、知ってますよ。彼有名人ですよね。うちの生徒達が黒兎さんに近づきたくて、何かしらちょっかいかけてるみたいですけど」
「……!?それは本当か?」
「え……。会長知らないんですか?僕1年だから当時のことは知りませんが、聞いた話によると、入学当初から可愛いクロウサギの生徒がいるって騒がれてたらしいですよ。その黒兎さんがどうかしたんですか?」
「あ……いや、先日たまたまこっちに迷い込んできて、草食組の教室棟まで送り届けたんだ」
「へぇ、そんなことが」
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