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第16話
すると山王もまた雪をじっと見詰めていた。
視線がぶつかり合う。
熱の籠ったような目。その奥にギラギラとした欲望という炎を見たような気がして、雪は咄嗟に身を竦ませた。
このままじゃ喰われる。そう直感したのだ。
「全然っ、……何も感じないし……っ」
ここで自分の弱点を見せてはいけない。見抜かれてはいけない。
ライオンなんかに食べられるのなんてまっぴらごめんだ。
雪はぐっと唇を噛んで体に力を入れると、抱えられた体を丸くした。
「……そうか。遊んでる場合ではなかったな。行くぞ」
山王の熱視線から身を守ろうと体を丸めた雪だったが、山王は雪からふいっと目を反らし、何事もなかったかのように歩き始めた。
それから山王は雪の尻尾に触れることは一切なく、草食組の棟まで軽々と雪を抱え歩いた。
力では敵わない。スピードも同等の力を持つ肉食組の代表をしている山王に、自分の弱点を知られ、もはや抗う気力は無いに等しい。
雪は移動中、されるがままに山王の胸に体を預け、ただひたすら時間の経過を待つばかりだった。
「よし、着いたぞ」
山王が雪をゆっくりと地面に下ろした。
山王は雪の後ろから付いてきて、教室へ到着すると教師に事のあらましを簡単に説明し帰って行った。
山王が教室へ顔を出した瞬間、中にいた生徒たちがどよめいたのがわかった。
‘’かっこいい‘’、‘’本物!?すごい迫力‘’、‘’さすが肉食組の会長‘’、‘’オーラが違う‘’
しかし雪の耳に入ってきたのは山王を崇拝するような敬うようなあがめる言葉だけだった。
確かに外見はモデルのように整っているし身体能力も相当高いのだろう。
加えて会長という役職についていることから、頭だって切れる筈だ。
百歩譲ってそれは認めてやってもいい。
だけど騙されるな。あいつは変態だぞ!!
雪の脳内で山王変態祭りが開催されていた。
絶対に忘れない。手を握ったこと。耳を触ったこと。尻を触ったこと。尻尾を揉んだこと。
山王を見て興奮し、湧き立つクラスメイト達の中、雪は一人悶々と山王への恨みを募らせたのだった。
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