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第28話

雪は周囲の異常に気が付き驚きの表情を見せ、その顔をすぐ曇らせた。 「これ以上俺達がここに居ては迷惑になりそうだからな。紅、戻るぞ」 「はい」 雷太と紅は空になったトレイを持って雪達に背を向けた。 なんて名残惜しいランチタイムだろう。 後ろで雪がどんな顔をしているのか想像し、なぜが胸が痛くなった。 食堂の境界線であるテーブル脇に牛島が立ち雷太達に会釈する。 「牛島、邪魔したな」 「いえ、こちらこそ制御できずすみません。そちらの生徒会の方々がまさか何かするなんて、滅相なことは思っていないんすけどね」 牛島は申し訳なさそうに笑って飛び出た鋭い角を撫でた。 「いや、それほどまでに先日の一件が問題になったということだろう。すまなかったな」 「いえいえ。お互い誤解が解けたみたいで何よりっす」 「それにしても立派な角だな。今年も体育祭が恐ろしいな」 雷太がにやりと笑うと牛島もにっかり笑って応えた。 「何言ってんすか。そっちの牙とか爪も相当ヤバイすよ。筋力だってハンパないし」 「はは、お互い怪我のないよう今度の会議で案件をまとめよう。そちらの会長にもよろしく伝えておいてくれ」 「了解っす」 ひとしきり挨拶を終えて食堂を後にしようとしたが、雪の寂しそうな顔が忘れられず振り返る。 離れた場所から雪もまたこちらを見ているのがわかり、雷太は手を上げた。 「黒兎、また一緒に食事しよう」 無意識でしたことだった。 ただ単純にまた雪と同じ時間を過ごしたい、そう思っていたから飛び出した言葉だった。 雪は一瞬きょとんとした顔でこちらを見ていたが、その後ガタガタと音を立てて椅子から降り、ぴょんぴょん飛び跳ねながら雷太に向かって手を振り返した。 「おうっ、またなーっ」 雪が高くジャンプする度、長耳が鳥の羽のように上下する。 野菜メインの食事が少し物足りなかった雷太だが、嬉しそうに微笑む雪の顔が最高のデザートとなった。 「黒兎さん、めちゃくちゃ可愛いですね」 「あぁ。どうしてあんなに愛らしいんだろうな……って、いや、違うぞ。変な意味ではない。擦れてない純朴な感じは好感が持てるなと思っただけだ」 「そうなんですか。でもあんなにガードが固くては次の約束はなかなか取り付けられないでしょうね」

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