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第27話

「してねーしっ」 優也に何か注意されたのだろう。 雪はぷくっと赤く染まった頬を膨らます。 膨らんだ頬はまるで滑らかな餅のようだ。 ……怒った顔まで可愛いとはどういうことだろう。 (俺は一体どうしたんだ) 雷太は残りの食事を雪に使ったフォークをじっと見詰めた。 このフォークの先が雪の小さな口に入り赤い舌に触れた……。 (それがどうしたというんだ……) 子供でもあるまいし、間接キスだなんて、そんなことを意識するなどバカバカしい。 「ほら、早く食べないと昼休みが終わるぞ」 雷太は諭すように雪に向かって言い、何事もなかったかのようにそのフォークで食事を済ませた。 雪もまた座り直し、自分のスプーンを暫し見詰めた後、頬を赤く染めたままグラタンを口にした。 食べているところを見られていては食べ辛いだろうと、雷太なりの気を利かせて視線を外す。 少し冷静になったところで気が付いた。 「紅……、俺達は威嚇されているのか」 「さぁ。でも皆さん興奮状態みたいですね。これ以上黒兎さんに構わない方がよいのではないでしょうか」 「……」 殺気だった空気を感じて雷太がちらりと振り返ると、牛島をはじめとした周囲の大柄な生徒達が、鋭い角を頭の両サイドから伸ばし、こちらを気にする素振りを見せる。 まさか自分達が雪や優也に何かするとでも思われているのなら心外だ。 そう反論するのは簡単だが、安易にそうもできない事情もある。 雷太はふうっと息を吐いて考えを巡らせた。 普段温厚だと思われている草食獣人達は、危機迫った場合にのみ普段は隠している角をにょきにょきと生やす。 その角は鋭く、自身を守るための、或いは攻撃をするための武器になる。 もしこんなところで草食組と衝突……なんてことになったら、血気盛んな肉食組は喜んで参戦するだろうし、間違いなく多数の怪我人が出るだろう。 「食事も終わったことだし俺達はこの辺で失礼する。黒兎、羊ケ丘、今後何かあったら遠慮なく俺に言ってくれ」 雷太と紅が席から立ち上がると、雪と優也が顔を上げた。 「……もう行っちゃうの」 雪の瞳が大きく潤んでいるように見えた。 兎のくせに捨て猫みたいな目で見上げないで欲しい。 「しょうがないよ雪。この間あんなことがあったばかりだし、みんな雪のことが心配なんだよ。見て、みんな角出ちゃってる」 「えっ、何これ……俺のせいなのか」

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