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第26話
むくむくと湧き上がる欲望を雷太は堪えることができず、口にするのをためらっていたベーコンのソテーをフォークで掬って口に入れた。
「黒兎」
「ん?」
未だ赤い頬でこっちを見る雪に見せつけるようにして、雷太はそのフォークの先をペロリと舐めて見せる。
一瞬雪が顎を引いた。しかし上目遣いでこちらを見ている。
「自分達が食事をバカにされたように、黒兎も肉食の好む食事に暴言を吐いたのだろう?同じようにあの3人組も傷ついているかもしれないぞ」
「……そ、それは」
「どうだ、お前もこれ食べてみないか?香ばしくて美味いぞ。肉は嫌いか?」
「えっと……き、嫌いってわけじゃ……」
「じゃあ食べてみてくれ」
雷太は小さめに切られたベーコンを一欠片とコーンを多めにしてフォークに乗せた。
「ほら、口を開けて」
雪にはきっと雷太に強いたことに対する罪悪感が多少なりともあるのだろう。
好きではないものを押し付けたのかもしれないということを自覚したのかもしれない。
それだけでなく肉が好きではないと顔に書いてあるようだった。
それでも雷太がフォークを差し出せば雪は小さな口を開く。
「ぁ……」
雪が口を開けてこっちへ顔を寄せている。
可愛いし、何よりピンクの唇と赤い舌がエロチックに見えた。
雄の本能をひた隠しにして雷太はベーコンとコーンを雪の口にそっと入れた。
「ん……」
雪はもぐもぐと小さな口を動かしている。
「どうだ」
「ん……うん、美味しい」
「そうか。それならよかった。これでお互い食事に対する思い込みが偏見だとわかっただろう」
「うん……」
雪が「んっ」と小さく声を出してベーコンを飲み込んだ。
やはりあまり好きではないのだろう。好きではないから喉を通らないのだ。
それでもここは、肉食、草食組お互いのためにこうするのがベストだと思った。
雪はちゃんと空気を読んで雷太に対応したのだ。
純粋で可愛い、黒ウサギ。
雷太の中で雪に対するまだ形ない想いが膨らんだ瞬間だった。
「会長……、食堂中の生徒が見てる前でセクハラ行為はやめてくださいね」
「せっ……そんなことをした覚えはない」
紅の冷めた視線が鋭く突き刺さっているのは気のせいだろうか。
向かい側では雪と優也がこそこそと何か話している。
「ばっ、ばかっ、違うっつーの!」
「だからその可愛い顔やめなって言ってるの!」
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