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あれから(1)

照りつける太陽の下、宇津木良《うつきりょう》はマウンドに立っていた。 夏の地方予選が終わり、少しすると、秋の大会が始まる。 まだ、甲子園も終わったばかりだというのに、そんな余韻は微塵も感じられず、新人戦が始まるのだ。   その後にはセンバツ出場をかけた秋季大会があり、栞奈木《かんなぎ》高校はその秋季大会で負けてしまった。 後、一試合勝てばセンバツに近づく……。 そんな悔しさの一歩手前で負けてしまった。 負けたことで、落ち込んでいてはだめだ。すぐに練習を再開し、そして、土日はほとんど練習試合だ。   背番号【1】のエースナンバーを背負うのは、一年生の宇津木。 ストレートが苦手な宇津木は、キャッチャーでキャプテンでもある尾崎敦《おざきあつし》のサインに首を横に振っていた。 (ああ、もう、どうして尾崎先輩はストレートを要求してくるんだよ!)   宇津木はなにがなんでも、首を横に振る。 ストレートじゃなくて、カーブとか、ナックルとか、色んな球種を投げることができるのに、尾崎はストレートを要求してくる。 (頑固すぎ)  唇を噤む。 そして、宇津木はグッと指をボールに絡ませ、投げ込んだ。 「おわっ」   思わず尾崎が声を上げた。 ぐぐぐっと大きく曲がったボールは、地面すれすれのところまで落ちる。 運よく、バッターは空振り三振。 そこで、ゲームセットの掛け声が聞こえた。 「はあっ……」  深い呼吸を一つ、吐き出した宇津木。練習試合は二対一で、栞奈木高校が勝った。               

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