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あれから(3)
「尾崎先輩、痛いですってば!」
そのまま、さっきまで試合をしていた球場に戻ると、宇津木は尾崎の手をおもむろに振り払う。
尾崎は無言のまま、試合を眺め、客席へと腰を下ろした。
「お前さ、なんで俺の言うこと聞けないの? 俺のリードが悪いの?」
「それは……」
膝に肘をつき、マウンドを切なげに見つめながら尾崎が呟く。
「ストレートに自信がないって……言いたいんだろ?」
言いながら、背後の宇津木に顔を向けた尾崎は、じっと鋭い視線で宇津木を見据えた。
「そう……です。自信がないんです。僕は、尾崎先輩のように……自分に自信がもてない……」
「そういうふうに卑屈になるなって……言わなかったっけ?」
ぐいっと胸ぐらを掴まれ、引き寄せられた。
唇が重なる。
驚いた宇津木は目を見開くことしかできない。
「……っ……んんっ……」
覆われた唇から、舌先がにゅっと唇を割って入ってきた。
口内を弄る舌に翻弄され、頭の中が真っ白になってしまう宇津木。
くちゅくちゅといやらしい音が鼓膜に触れ、持っていたエナメル鞄を思わず落としてしまった。
「宇津木」
尾崎の舌先は、宇津木の唇のりんかくをゆっくりとなぞる。
ぞくぞくっと体を震わす宇津木の耳元で、尾崎はささやく。
「続き……したいか? したくないか? それとも、説教のほうがいいか?」
「おざ……き、先輩……」
にやりと唇の端を持ち上げた尾崎は、なにかを企むようにそっと微笑んでいた。
(まさか、誰も思っていないだろう。僕と尾崎先輩が、こういう仲だってことを……)
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