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第77話
「じゃ少し休んで帰るよ、みずきはすぐ帰る?」
やはり身体を少し休めたくてそう答える。
「いや…」
アキラが帰らないなら一緒に居たい…
そう心で付け足して想う。
「じゃまたバイク乗せて帰ってくれる?」
不意にそんなことを言うアキラに短く頷く…
「あぁ」
断る理由などないから…
自宅の近い2人、アキラはついでにみずきのバイクに乗せて帰ってもらうこともしばしば…
「サンキュ、助かるよ」
みずきは、そのまま三階の個室部屋まで付き添って…
「じゃ一時間後に」
アキラは、手をひらっと振って個室に消えてしまう。
「あぁ…」
一緒に過ごしたいと思ってしまうが…さすがにそれは言えない…
みずきも別の個室で時間が過ぎるのを待つ。
一時間後…
みずきはアキラを起こしに個室へ向かう。
ベルで呼ぶと比較的早くアキラが顔を覗かせる。
「あ、みずき。帰る支度してるから中入ってて」
「あぁ…」
「そういや、親父さんちゃんと治療うけてる?」
鞄を用意しながら聞いてくる。
みずきの父親直樹に病院を教えたのはアキラだから気になったのだろう。
「あぁ…禁断症状が出て苦労しているようだが、頑張ってるよ」
「そっか…良かった」
そう優しく微笑む。
お礼が言いたかったが…
その眩しい笑顔に言葉が出なくなる。
「……」
「あ、これ食べないとな」
カバンを整頓していたアキラ。
不意に出したものは…
「あぁ…」
先ほどバレンタインでルキに貰ったチョコレートのお菓子。
「お前のは?」
「さっき食べたから…」
アキラを待っている間に食べていたみずき…
「そっか…じゃ一口オレも」
そう言うとルキに貰ったチョコレートのお菓子をひとかじりするアキラ…
「ん、結構美味いな、はい」
そう感想を呟きながら…
残りのお菓子をみずきへ差し出す。
「え…」
驚き固まるみずき…
「オレだけ食べててもなんだし、残りやるよ」
「いや、俺はさっき食べたから」
「他人の食べさし、無理な方?」
可愛く首を傾げ、そう聞いてくるアキラ…
「いや…」
無理も何も…
アキラなら何だってOK…という気分で首を横に振る。
「ならどーぞ」
そう言いながら、チョコレートのお菓子の残りをみずきの口元に持って行く。
「……」
反射的に食べてしまうみずき。
「美味いよな、ルキ先輩すげーな」
そう微笑む。
「…あぁ」
相変わらずマイペースのアキラにたじたじのみずき…
勝手にドキドキと胸が高鳴ってしまう。
そんなことなどつゆ知らずのアキラ…
「じゃ行こっか」
純粋に笑う。
「あぁ…」
なんとか頷いて…
マイペースなアキラについて行く。
夜のBOUSを2人して後にする。
前に停めてあるみずきのバイクまで行くアキラ。
みずきはアキラにメットを渡す。
最近はアキラと帰ることが増えたので、アキラのヘルメットもあらかじめ買って持ってきているみずき。
みずきもメットをかぶり、バイクに跨る。
その後ろに乗って、みずきの腰へ手を回し身体を寄せて、しっかり掴まる。
アキラに触れられ…
無意識に鼓動が速くなるが…
あまり力の入らないアキラが落ちてしまわないか不安で、そちらの方が心配なみずき…
「大丈夫か…?」
「OK~、よろしく」
当の本人は気楽なもの…
「じゃ、行くよ」
「ん…」
アキラの返事を確認し、エンジンをかけ、出来るだけゆっくりバイクを走らせはじめる。
途中、信号で止まると…
背中から声が…
「オレ、バイク結構、好きかも…」
ポツリとそう伝えてくる。
何気に言ったアキラの言葉にドキリとしてしまう。
好き――。
バイクのことだが…
いつか自分のことも好きになって欲しい…
そう心の内で想ってしまう。
「あぁ…、俺も…好きだ」
不自然にならないように…会話に紛れ込ませる…
本当に伝えたい想いを…
アキラのことが好き…
「ん…風が気持ちいいよな…」
澄んだ綺麗なアキラの声…
みずきに掴まり…
息をつくように囁く…
みずきの想いなど気づきもせずに…
「あぁ…」
そう答える。
決して…
伝わることのない想いだけれど…
この瞬間を大切したい…
そう切なく想う気持ちを隠すみずき…
アキラとのかけがえのない時間を…
大切に過ごすために…
それだけで…今は、幸せだから――。
《2月のある夜》終
シリーズ【スナオになれない①】完結。
引き続き番外編を少し更新します。
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