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第76話《2月のある夜》

2月半ばBOUS内3階。 撮影ルーム。 いつもの監督のかけ声が響く。 「OK!撮影終了、お疲れ様~」 撮影が終わり、周りが騒がしくなる。 『ありがとうございました』 性優2人は監督に挨拶して… 「大丈夫か?」 そっと相手役に声をかけるのは、性優名ユウこと、みずき。 バスローブを羽織らせる。 「ん?まぁなんとか…」 みずきに身体を支えられながら起き上がる。 今日もみずきとレイプ系撮影でお疲れ気味の性優名サクヤことアキラ。 ふとそこに横から声がかかる。 「2人ともお疲れ様、はいこれ」 撮影助手のルキ先輩だ。 「え?」 手渡されたのは手作りのチョコレート。 「ハッピーバレンタイン」 そう可愛い笑顔で付け足すルキ。 『ありがとうございます』 2人は声を揃えてルキに礼を言う。 そのまま笑顔でルキは立ち去った。 「そうか…今日はバレンタインデーなのか」 それを見ながら思い出したように言うみずき。 「だな、こんな日にオレと撮影とかついてないなお前」 そうクスクス笑う。 「いや…」 むしろアキラに会えて嬉しかったのだが… 当然そんなことは伝えられない… 「お前彼女とかいねぇの?」 アキラはシャワールームを目指し歩き出しながら、不意に聞いてくる。 「あぁ…」 アキラの後をついて行きながら、すぐ頷く。 叶わぬ恋だとしても… 目の前を歩くその人に片想いしてから… 他は目に入らなかった… 「ふーん、モテそうなのにな」 ふと振り返ってそんなことを言う。 「?」 「いつもチョコ貰うんだろ?」 「…、でも客からは貰えないから断るが…」 コンビニの客がくれようとしたことは何度かある。 「そうなんだ」 「…アキラは貰うのか?」 気になり質問してみる。 「小学校の時はくれようとした奴いたけど…中学からは面倒だからバレンタイン周辺学校欠席してる」 さらっとそんなことを言うアキラ… 「えっ」 「貰っても食わないしさ、断るのも面倒だし、欠席したら自動的に貰わずにすむだろ」 「そ、そうなのか…」 少し驚きながらも答える。 「まあ家まで持ってくる奴いるけど…」 「アキラは…その、…女子と…付き合ったことはあるのか?」 話の流れから…気になってしまったことを遠慮がちに訊いてしまう。 「ん?…お前はあると思う?」 逆に質問され… 「えっ…」 「オレが女子と付き合ってたか…」 「……」 答えに詰まっていると… 「ふっ…あるんだなこれが…」 困っているみずきの様子を笑いながら答えるアキラ。 「え…」 言葉をなくすみずき。 「意外?」 「いや…」 それだけ綺麗な姿だから、女だってほっとかないだろう… しかし…みずきは胸が痛んでしまう… 「ま、少しの間だけどな、しかもムリヤリ付き合わされたようなもんだし」 少し顔をしかめながら言っている… 「いつ…」 つい聞いてしまう。 アキラのことが知りたくて… 「中2だったかな?3年の女子に賭して負けてしばらく付き合ったけど…向こうから逃げてった」 そう笑うように言うアキラ。 「……」 「オレ女子って分からないんだよなぁ…オレの人生の中で、女ってあんま関わったことないから…」 そして首を傾げ続ける。 「男子の方が分かりやすいよな、欲も単純だし…あ、でもお前は少し分かりにくいか…」 「え?」 そんなことを言われると気になる。 分かりにくい? 「いや…ここの奴らが分かりやすいだけだろうな…」 「……」 そう1人納得してシャワー個室へ消える。 みずきも首を傾げながらも、個室に入り素早く身体を流す。 そしてアキラがシャワー個室から出てくるのを待っている。 アキラに、父親の件で世話になってから、同じ撮影の時はBOUS内、アキラに付き添うことにしているみずき。 アキラが他の性優たちに絡まれないように… そして少しでも多くの時間をアキラと過ごしていたいため… しばらくすると、アキラはさっぱりした様子で淡い栗色の髪を拭きながら出てくる。 「ふぅ、気持ちいい」 独り言を呟きながら、みずきの前を通っていく。 可愛いその姿に目を奪われながら… あまり見つめすぎないように視線を外し…聞いてみる。 「個室で休んで帰るか?」 「んー、どうしようかな…お前いるから帰ろっかな…」 みずきを振り返り…少し考えるように首を傾ける。 そんな何気ない姿にもドキドキしてしまうみずき… 想いを心の内に隠して返事を待つ。 アキラもみずきについてきてもらうのは助かるので、付き添ってもらうのが習慣になっていた。 「好きにしたらいい」 考えているアキラに…そう促す。

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