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第75話《微妙な関係》
12月中旬の日曜日…
みずきの入院からちょうど一週間後…
アキラはBOUSにいた…。
今日は撮影日…
相手性優はヨシ…
いつも言いがかりをつけては暴力してくる嫌な奴…
だったけど…今日は様子が違う。
ミーティングをするため二人きりになる。
「…よろしく」
いつも挨拶なんかしてこないのに、ヨシは自ら挨拶してくる…
「……」
驚いて…無言で見てしまうアキラ。
「んだよ…」
「いや…別に…」
微妙な空気のまま、台本チェックに入る。
ヨシとのシーンは甘いものが多い…
強姦撮影ではないので、撮影自体は楽なほうだ…
ただ、ヨシが相手の場合、演技の邪魔をしてきたりするので気は抜けないのだけれど…
「ユウ、昨日退院してもう仕事してるけど大丈夫なのか?」
淡白に台本チェックしながら、ふいにヨシが聞いてくる。
「…もう完治してるから大丈夫だと思うけど?」
アキラも感情なく答える。
「そうか…」
そうヨシは呟いて…それきりしゃべらないヨシ…
そして撮影ルームに移り、リハを終え、本番撮影に入る。
「ッあ、やだ…っ」
「サクヤ…綺麗だ…愛してる」
深い口づけを繰り返し、愛を囁くヨシ…
「んっ…ふ、ぁ…ヨシッ」
甘い吐息とともに、名前を呼び返し…瞳を重ね合う二人…。
「はい!OK!調子いいね、今日は」
監督の声が入り、二人はぱっと離れる。
特になにも言ってこないヨシ…
いつもへたくそだの何だの罵って来るのに…
「フツーで怖いんだけど…」
ぽそっとつい呟いてしまうアキラ…
「うるせ…演技しろ」
「……」
首をかしげながらも、演技に集中するアキラ。
邪魔されるよりはいいから…
その後の撮影も無難なく終わった。
『ありがとうございます』
性優二人の声が重なる。
ふと、ヨシとアキラは目を合わせる。
「……オツカレ、さっさと帰れ」
アキラの腕をぐいっと引いて身体を起こしながら…そう、ぼそっと言う。
「あぁ…お疲れ…」
なんだかいつもと違うヨシに慣れず唖然としてしまうアキラ…
「フン」
そんなアキラをほっておいてバスローブを羽織り、撮影スタジオを出て行くヨシ…
「……」
(なんか気味悪ィな…)
いつも乱暴なヨシが普通すぎて、反応の仕方が分からず微妙になってしまう。
(ま、暴力されるよりはいっか…)
アキラもバスローブを羽織り撮影スタジオを出てシャワールームを目指す。
シャワールームまであと一歩のところで、脇からぐいっと腕を掴まれる。
「ッ!?」
「サクヤ来いよ」
その人物は性優名ケンジ…
ユウやヨシ達の2つ下の代のセンパイだ…
最近、アキラに絡んでくることが多くなった。
「っ!?ケンセンパイ?ちょ…」
「いいだろ?」
ケンジは無理やりアキラを壁に押さえつけて口づけしてくる。
「ちょ…待って、撮影後で疲れてるから…勘弁してください」
弱々しく抵抗しながら…逃れようとするが…
キツく抑えられているためアキラの力では対抗しようがない…
「サクヤ…」
ケンジは構わずアキラのバスローブを解き、素肌へ触れていく…
「ッ…ん、ヤだ、って、もぅ…」
抵抗しながらも…
アキラは諦めの感情に支配されそうになったとき…
「オイ!目障りなんだよ」
横からケンジを睨みながら声をかけてきた人物…
先にシャワールームに消えた今日の相手役ヨシだった…。
どうやらシャワーを終えて帰るところらしい…
「えッ?ヨシセンパイ!?」
いきなりの横からのドスの効いた声にびっくりして固まるケンジ。
ヨシたちはここでは現役最年長なので、性優の中では一番力がある。
「どけ!」
そんなヨシに睨みを利かされ…
「っ、スミマセン!」
ケンジはすごすごと退散していった。
「な、…」
一瞬何が起こったのか理解に至れないでいるアキラ…
ヨシの視線がアキラへと移る。
「…っ」
いつもの癖で身構えてしまう。
「ぼさっとしてるからだろ、さっさと行け!」
だがヨシは落ちているアキラのバスローブを投げ渡し、そう言い残して去ろうとする。
「えっ?……ッ待て!」
慌てて引き止めてしまう。
「んだよ…」
「アンタこそ…なんで今日は…」
明らかにアキラを助けたヨシ…
バスローブを羽織りながら聞いてしまう。
今まで襲うことはあっても助けるなんてことされた覚えがない…
「ただ、目障りだっただけだ」
「目障りって…」
「うるせ」
そのまま行こうとする…
「ちょ、待てよ!」
「っんだよ…」
うるさげに振り向くヨシ…
「…なんかしんねーけど…サンキュ…」
一応助けてもらったので嫌いな相手にも礼を言うアキラ。
「……」
そんなアキラを見て、今度はヨシが固まる。
「んだよ、一応助けてもらったから…」
やはりちょっとツンとして言う。
「……喜んでやられてんのかと思ってたけど?」
「はぁ?んなわけねぇだろ!」
「フン…」
ヨシは少し笑ってそのまま行こうとする。
「あ、ちょ、待てよ、なんで助けてくれたんだ!?」
アキラはそこが納得いかなくて問いただす。
ヨシはアキラを振り返り…少し考えるように黙って…
「……、みずきの件では…助かったと思ってるから、そんだけだ!」
ふん、と捨て台詞のように言ってヨシは今度こそ去っていった…。
「……」
そんなヨシの様子に驚きながらも…
ヨシ的に借りを返したつもりなのか…?
首をかしげながらシャワールームに入る。
(ずっとあの調子ならありがたいんだけど…)
シャワーを浴び、今日の疲れを流しながらポツリとそんなことを思う。
そのまま、誰にも見つからずBOUSを出れたアキラ…
ルードの待つ自宅へと帰っていった。
みずきの一件で、アキラに対する見方が少し変わったヨシ…
以後、BOUS内でアキラに乱暴を働くことはなくなったのだった……。
《微妙な関係》終
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