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○第60話○
「くっつくなって……あっ!」
「また千秋ちゃんの負けだね」
「無効だ!今のは絶対妨害だった!」
視線がダメなら温もりを。そう思ってもたれかかったのに、千秋ちゃんはすぐに文句を言う。でもその頰に赤みがさしているのを見て、思わず口元が緩んだ。
「千秋ちゃんの方がやり込んでるはずなのにね」
少しだけ意地悪なことを言って、怒った千秋ちゃんが顔をこちらに向けるのを待つ。そうすれば彼は、予想通りに動いてくれた。
「うるさい。今のは手加減してやっただけ……」
負けず嫌いで、すぐに拗ねる千秋ちゃんが可愛くて。その赤みを取ってやろうと頰に手を伸ばす。
「っ、何してんだよ」
「千秋ちゃんが照れてるから。冷やしてあげようと思って」
そう言えば、彼は勢いよく視線を画面に戻してしまった。
「ほら、もう一回やるぞ」
千秋ちゃんの手が頰へと近付いて、僕の手を払う。仕方なくコントローラーに位置を戻せば、彼の熱を奪った指先が冷えていった。
もっと、素直になってくれればいいのに。
そんな不満が届いたのか、千秋ちゃんが僕の機嫌を取るかのようにこう言った。
「そういえば、拓海は何か欲しいものあるの?」
少し首を傾げて、あぁクリスマスだからかと納得する。
「……千秋ちゃんがいつまでも一緒に居てくれる券?」
思いつく今の自分の願いはこれくらいしかなくて、そんなものあるはずないと知りながらもそう言った。
「なんだよそれ」
当然のように呆れた顔をされて、もう一度真剣に考えてみる。
目に見える物で、千秋ちゃんから貰って嬉しいもの。
「手錠……?」
口をついて出た言葉に、期待しているのとは違う千秋ちゃんの視線がささる。呆れよりも、非難の色の強いそれ。
「千秋ちゃんのじゃなくて僕用のだから」
安心してもらおうとそう言ったのに、彼はその顔を崩さない。
「なんで?」
当たり前だろうそんな彼の問いに、僕は少し誇らしげに語った。先週描いた、小さな夢を。
「それぞれ片手だけ嵌めて鍵を交換したら、ずっと手を繋いでられるじゃない?」
そんな僕の言葉に千秋ちゃんは溜め息を吐いて、でも、ダメだとは言わない。
「買いに行けないし、通販も親のチェックが入るから」
「うん。だから、クリスマスに千秋ちゃんが僕に似合うのを選んで。それが一番今ほしいもの」
少し強引にそう言えば、「わかったよ」と半ば諦め気味に返ってくる。
「ありがとう」
また頰の色味が増した彼が、ただただ愛しい。
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