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「俺は早坂。下の名前は徹(とおる)。徹って呼んでよ。君のこと和って呼ぶから。気に入らなくてもそうしたいな」
「徹って呼んでやるから、俺のことは古里って呼べ」
「いいや、和って呼びたい。君が無視しようものなら、俺はずっと返事をしてくれるまで和って呼び続けるね」
「……っ、もう勝手にしろバカ」
絶対に許してもらえないと思ったけれど、意外にも早く折れてくれた。面倒だと思うのなら始めから俺のことは無視していただろうから、これ以上言い返したところで無理だと分かってくれたのだろう。可愛いところもあるじゃあないか。
「和、お前の家ってどこら辺?」
「どこら辺って言われても引っ越してきたばかりで分かんねぇよ。近くに大きなスーパーと小学校があったけど」
「おっ、じゃあ俺と同じ方向だと思う。今日から一緒に帰ろうよ」
「はぁ? 誰がお前となんか」
他の奴らとはできるだけ関わらせたくはない。話をする中で和という人間を知ってしまえば、もしこのイメージと正反対だった時に操作できなくなってしまう。「意外と良い奴じゃん」と思わせてはならないのだ。強さを壊すためには、このクラスメートと和がそれなりの友人関係を築くことは許されない。
まずは俺だけが関係を築いてどういう人物なのか探りを入れ、それでやっぱり操作される側の人間ならば──。
「ふはっ」
「徹、何で笑ってんだよ」
これまで好き勝手に他人を操作してきたであろうこのクラスメートを俺が支配してやる。和への勝手なイメージを俺が奴らに持たせ、俺に支配されたクラスメートが和を操作するんだ。そうすればこの教室にいる奴ら全員が俺の手の中に。俺が悪いことは何もない。俺の気に障った和が悪い。俺が植え付けた俺という人間のイメージをすんなり受け入れたクラスメートが悪いんだ。
「和、君のおかげで毎日が楽しくなりそうだよ」
「俺は悪夢の始まりって感じだけどな。お前のこと好きになれそうにねぇし」
「好きになるよ、きっと」
そう仕向けてやるから。その強さを壊してあげるから。和の味方は俺しかいなくなるように、俺が操作して、そうしたら君にはどうしたって俺が必要になる。俺の存在に感謝するようになるだろう。……大丈夫。最後に俺まで裏切るようなことはしないよ。俺の嘘で君を苦しめる分、必ず傍にいてあげるから。
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