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「古里くん、私の財布盗んだでしょ!」 今日の最後の授業だった体育が終わり、後は帰るだけだったはずの放課後の教室に、女子の声が響いた。この間、和に課題を盗まれたと騒いだ彼女のもの。興奮して発せられたその声は酷く耳障りだけれど、待ちに待ったこの瞬間だから何だって許せてしまう。 ──もうすぐ和が落ちてくる。真実を見失っている愚かなクラスメートだって見物だ。 「は? 盗んでなんかねぇよ! この間から何なんだ? 俺が何かお前に気に入らないことでもしたか? だから嫌がらせしてくるんだな?」 「嫌がらせ? それはあんたが私にやっていることでしょう? 鞄、見せなさいよ! 盗んでいないのなら見せられるでしょ!」 「いいぜ、そこまで言うなら見てみろよ」 財布が無くなったことをすぐに和に盗まれたと考える彼女の思考がまず狂っているけれど、探す段階で時間かかると面倒だし、ここまで清々しく疑ってくれれば反対に気持ち良いくらいだ。 体育の授業に必要な名簿を担任が忘れていてそれを俺なんかに頼むから、だから一人教室で自由に動けることになった俺が、彼女の財布を和の鞄に突っ込んでしまったんじゃあないか。 「……私の財布、やっぱりあったじゃない!」 「はぁ……? なん、で……」 目の前で和が崩れた。教室では小さな悲鳴が上がり、何人かは和に同情したようだった。何の確認も取らずに和を疑い、そこから財布が見つかれば、さすがに仕組まれたことでは? と疑う者もいたのだろう。 「徹、俺……、俺ッ、」 「和、」 ふらりとした足取りで立ち上がり、教室を出ると和は走り出した。

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