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第10話 義弟と義兄の過去【2】
買い物に出かけた先は、近所のスーパーだった。
正月時期で大量に用意されていた惣菜には値引きシールが貼られ、目を輝かせた恭二くんがどれにしようかと物色している。
「なにがいいかな? 義兄さんはどれ食べたい?」
「今日のスポンサーは恭二くんなんだから、恭二くんの食べたいのを選んでいいよ」
「……どれでもいいの?」
「うん。もちろんだよ」
「へえ……」
「? どうかした?」
「ううん、なんでもない。どれにしよっかなー。オードブルも美味しそうだけど、こんなに沢山食べられなさそうだし……どうしよう?」
「だから、恭二くんの好きなように……」
「もー、さっきからそればっかりじゃん。一緒に考えようよー」
拗ねたように少し口を尖らせて袖口を掴んでくる仕草に、男だとわかっていても胸がざわついた。
そんな心の動揺を隠すように惣菜吟味に精を出し、一緒に考えて選んだのは、半額シールの貼られたカラアゲとポテト、そして刺身の盛り合わせ。
食べ物を決めたら次はアルコールのコーナーへ。
6本パックのビールとチューハイを何本か、かごへと入れた。
「そういえば、義兄さんってお酒は強いの?」
「いや、そんなじゃないよ。飲みすぎるとすぐ眠くなっちゃうしね」
「へえ……そっかそっか」
「恭二くんは?」
「僕もそんなに強くはないかな」
「それじゃ、これはちょっと多すぎるかな?」
かごの中には10本を越えるアルコール。大して強くないふたりが飲むには少し多すぎだ。
「そのままでいいよ。せっかくのお正月なんだし、酔い潰れたら潰れたでいいじゃん。姉さん帰ってくるの明日なんだから。うるさく言う人もいないし、のんびり飲もうよ」
「……そうだね。たまにはいいよね」
重くなったエコバッグを持って歩く帰り道。家までは10分ほどだけど、5キロを超える荷物は運動不足の身には少しキツかった。
「重いでしょ? 持つの代わるよ」
「いや、買ってもらった上に荷物まで持たせるわけにはいかないよ。だいたい、どう見ても恭二くんのほうが力ないでしょ」
「力はなくても若さはあるよ」
「うぐ……。それでもダメです」
家で一緒にテレビを見ていたときは、なにを話せばいいかわからなかったのに、今はすらすらと言葉が出てくる。
短時間の買い物でも、一緒になにかを考えるってことで距離が縮まったんだろうな。
「だったら、半分持たせてよ」
「半分って言っても、バッグはひとつしかないんだけど……」
「うん、知ってる。だから、紐を片方渡してよ」
そう言いながら恭二くんは、エコバッグから伸びる手さげ紐の片方を手に取った。
夜風に晒され冷たくなった俺の手に、一瞬だけ恭二くんの温もりが重なって、紐と一緒に離れていった。
「はい、これで半分こだよ」
手さげ紐を片方ずつ掴み、ふたりでひとつのバッグを持つ。
俺と恭二くんの中間で、重さが半分になったエコバッグがゆらゆら揺れていた。
手は相変わらず夜風に晒され冷たいまま……のはずなのに、さっきより、少しだけ温かくなった気がした。
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