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第3話
「――――」
「うまく化けたな」
月野と名乗った男に無遠慮な視線で舐めるように見られて、ひなたは観念した。
「さっきの優勝は取り消しってことですか?」
ようやくそれだけを口にする。
モデルの仕事はしかたないとしても、賞金の百万円は惜しい。せめて半分くらいはもらえないかと思ってしまう自分がいじましい。
しかし月野は、ひなたの問いかけには答えずに冷たい声で言い放った。
「おまえ、モデルの仕事なめてるだろ?」
「は?」
「モデルの仕事なんて、ちょっとポーズをとってニッコリ笑っていたらいい、楽なもんだって」
「…………」
図星だった。
コンビニやファストフード店のバイトに比べたら、モデルなんか楽勝だって、確かにそう思っていた。
「金をもらってする仕事に楽なものなんかないんだよ。おまえなんかな、こっちから辞めろって言わなくても、一カ月も持たないよ」
月野に鼻で笑われて、ひなたはムッとした。
生まれつきの負けず嫌いの性格が顔を出したのだ。
「そんなことありません。絶対に続けてみせます!」
「ふーん。じゃ、おまえが半年間、『moon』でのモデルの仕事をやり通せたら、うちの事務所で拾ってやるよ。そのときはちゃんと男としてな。ま、どこまでがんばれるか、オレが傍でじっくり見ていてやるよ、坊や、いや、今はまだお嬢さん、か」
揶揄するような口調で言うと、月野は席を立ち、店を出て行った。
ひなたはムカムカしていた。
なんだよ、あいつ。
絶対絶対モデルの仕事やり遂げて見せるからな。
半年後に、あいつが事務所に誘って来たら、こっちからそんな話蹴ってやるんだから……!
――こうしてひなたのモデルの仕事が始まったのだった。
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