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第41話
厳しい冬が過ぎ、季節は春へと移ろい、四月、ひなたは高校三年生になった。
この世界に入るまでは、大学進学を考えていたひなただったが、悩みに悩んだ結果、進学はやめにすることにした。
大学で色々学びたい気持ちは最後までひなたを迷わせたが、それよりももっと演技の練習をしたいという思いが勝ったのだ。
月野はひなたの意思を全面的に尊重してくれた。
「受験をしないとなったら、オレけっこう時間にも余裕ができるから、月野さん、うんと仕事入れてね!」
ひなたが張り切って言うと、月野も勿論、請け負ってくれた。
「分かってるよ。……それはともかく、ひなた、おまえ今月の二十八日、誕生日だろ? なにか欲しいもの考えとけよ」
「月野さん、オレの誕生日、知っていてくれたんだ……」
感動するひなたに、月野はサラッと答えた。
「当たり前だろ。オレはおまえの専属マネージャーなんだし」
「そ、そんな理由……?」
月野の色気のない答に、ひなたは今度は落ち込んだ。
「欲しいプレゼントは二つ考えとけよ、ひなた」
「え?」
きょとんとなるひなた。
「どうして? 二つもくれるの?」
「一つは専属マネージャーからのプレゼント。もう一つは……その、恋人として、おまえにプレゼントを贈りたいから」
めずらしく月野は端整な顔に照れくさそうな表情を浮かべている。
「月野さん……」
ひなたはうれしさのあまり、涙があふれそうになるのを必死でこらえた。
月野が運転中でなければ、彼に抱きついていたところだ。
月野がひなたのことをはっきりと『恋人』と言ってくれたのは、初めてである。
「うれしい……」
どうしてもこらえきれなくなった涙を、ひなたは手のひらで拭いながら微笑んだ。
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