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第55話

 深い夜の闇も静けさも、二人でいっしょにいれるなら、寂しくもないし怖くもない。  ただただ、優しく愛おしいひとときである。  月野の口から自然とその言葉が出た。 「ひなた、ここでいっしょに暮らさないか?」 「えっ……?」 「もう離れて暮らすほうが不自然だろ……?」 「月野さん……」  ひなたは目をまん丸にしてびっくりしていたが、やがて、このうえなく幸せそうな笑みを見せてくれた……盛大な涙とともに。  その夜はなかなか睡魔がやって来なかった。  月野の腕の中で目を閉じているひなたも眠ってはいないようだ。  不意にひなたは目を開け、月野を見つめると、言った。 「……ねえ、月野さん、もしオレが落ち目になっても、ずっとオレのマネージャーでいてくれる?」  月野は思わず笑ってしまう。 「気が早いな。まだスターにもなっていないのに、落ち目になる心配か?」 「だって……」  月野はひなたの額にそっとキスをした。 「おまえは大スターになるよ。落ち目になんか絶対にならない。……このオレがずっとマネージャーでいるからな」 「うん。月野さん……」  ひなたはうれしそうに笑ってから、更に言葉を紡いだ。……少し頬をピンクに染めて。 「じゃ、じゃあね、オレがいくつになっても、こんなふうに抱きしめてくれる? 月野さん」  月野はひなたを抱きしめる腕に力を込めて応えた。 「もちろん」  ―――もし、運命の赤い糸というものが目に見えたならば、ひなたと月野はしっかりとそれによって結ばれているのだろう。  ひなたが孤独に泣くことも、月野が自分を戒めることも、二度とない。  二人は生涯ともにあり、歩いていくのだから―――。

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