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第2話
「あっ、月山君!」
名前を呼ばれ、月山綺月(つきやまはづき)は次の時間の移動教室へ向かう足を止める。
名前を呼ばれる度に胸の鼓動が一つ大きく鳴った。
それもそうだろう。好きな人に名前を呼ばれるのだから。
「さっきの時間の小テスト、満点だった。凄いね!」
さらさらと動く度に揺れる黒い髪。光が当たるとより一層輝いて見える。
少し垂れ下がった瞳は柔和な印象を与え、優しい雰囲気が見ただけでも分かる。
黒木綾(くろきあや)先生は、俺のとこまで小走りで来て止まった。
「いえ……ありがとうございます」
「元々数学得意な方だっけ?」
「そんなに。する事がないので、ひたすらやってるだけです」
「嘘、今の若者そんな無欲なの!?自分の趣味見つけてみな、楽しいから」
「はぁ……」
早く行きたい。先生と話したくない。
先生と話してると、胸が苦しいから。
「次もこの調子で頑張ってね」
「っ」
頭に乗せられる、温かい手。優しい手つきで俺の頭を撫で、名残惜しく離れてく。
「ねぇ黒っち〜私の小テスト採点間違えてんだけど!」
「えっマジで!?じゃ、呼び止めちゃってごめんね!」
女子に呼ばれ、走り去っていく。
頭には、まだ手のひらの感触が残っていた。
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