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8 入社一年目11月。
『おい山崎!!今日飲みに行くぞ!!』
『えっ!?なんでですか?』
俺は急に天野さんに誘われて驚いた。
『なんでですか?ってお前の祝い。』
『祝い?』
『おう。部長も褒めてたぞ。最近山崎の伸びがすごいって。』
『あっ…』
そう、俺は残業しながら知識を詰め込んだことで、なんとか一日のノルマをクリアできるほどに成長していた。
『だから祝いだよ。』
『ってことは…』
『もちろん、俺の奢り。』
『あざーす!!』
『本当お前調子いいよなぁ。』
そう言いながら頭をわしゃわしゃされる。
天野さんに触れられてもなんとも思わない。
だけど、あの一回きりの小宮さんに頭をポンポンされたことが忘れられないでいる。
日に日に自分の中で大きくなっていく小宮さんの存在にビビり始めていた。
俺、本当大丈夫だろうか…
『じゃぁ…カンパーイ!!』
『ありがとうございます。って、2人なんですね。』
『俺と2人じゃ不満か?』
『いや、そんな訳では…』
もうちょっと色々な人に祝ってほしかったなと自分の欲が出る。
『まぁ、お前と2人で話したいこともあったしな。』
『説教なら聞きませんよ。今、OFFなんで。』
『ちげぇよ。俺どんだけねちっこい先輩なんだよ。』
天野さんといると本当に楽しい。
なんだかお兄ちゃんみたいで、このじゃれ合いも心地良い。
『お前、彼女とかいんのか?』
『なんすか!?急に!!』
『なんでそんなにビビってんだよ…』
『いや、ビビってませんけどね…』
『お前、結構良い顔してんのになんか勿体無いよな…色々と。』
『色々とってなんすか!!そんな哀れな目で見ないでください。いや、別に彼女とかいらないですから。』
『お前好きな奴はいんの?』
『バッ!!!』
『バッ?何その反応。お前いちいち面白い。』
『い、いませんよ。』
『嘘つくの下手くそか。バレバレだよ、色々と。』
『また色々って…なにがバレバレなんすか?』
『好きな奴がいるってこと。それに…』
『それに?』
『誰が好きなのかってこと。』
!?
その一言で俺の心臓は止まってしまいそうだった。
いや、絶対わかるわけない。
そう思う反面、天野さんにならわかってしまうのか…と心配がよぎったりして…
『その百面相やめろ。』
『あれ?俺そんなことしてました?』
『頭イかれたのかと思った。』
『はぁ…』
『当ててやろうか?』
俺はドキドキしながら無言で頷く。
『K.Kさんだろ?』
『なぜにイニシャルトーク?』
『いや、なんか学生っぽいかなって。』
K.K?
K.K!?
K.K!!
『K.K…』
『当たりだろ?』
『いや、イニシャルなんでなんとも言えませんよね…』
俺は誤魔化そうと必死になる。
小宮圭介。完全にK.Kじゃねぇかと心の中で叫ぶ。
『あの人、残念だけどそっちじゃないぞ?』
『いや、そっちって…俺もそっちじゃないですけどね…って、あっ…』
『いただきました。男で確定な。』
しまった。
完全に持って行かれた。
やっぱ営業マンって話術が巧みなんだよ。恐ろしい…
『大丈夫。俺、口は硬い方だから。』
『…』
『信用してねぇって顔だな。大丈夫。』
『は、はぁ。』
『それに!!』
『それに?』
『色々協力してやれる!!』
『はい?』
『まぁ、色々任せろ!!なっ?』
『は、はぃ…』
そしてその日はなぜ好きになったのか、どこがよかったのかなど根掘り葉掘り聞かれ、帰ったのは深夜だった。
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