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55 入社二年目3月。
3月の風はまだ冷たくて、小宮さんとこうして寒い中を歩いていると一年目の研修を思い出す。
あの時のドキドキはいつまで経っても忘れられなくて…
あの時の約束は今日果たされたということかな?
飲みに行ったわけじゃないからまだか…なんて、一人で考えながら隣を歩く小宮さんを盗み見る。
寒いのかコートの襟に顔を埋め気味に歩く姿でさえもかっこいい。
俺よりも遥かに高い身長に似合った端正な顔。
スタイルもいい。
何もかもが完璧なこんな人が俺の物になるわけはないのに…
さっきのプレゼントのことを思い出す。
どうして?
なんでくれたの?
そればかりが気になる。
でも聞けなくて…
無言のまま足を進める。
もう少しで駅に着いてしまう。
そう思うと気持ちを伝えるのは今しかないのではないかという焦りが出る。
フラレるだけだ。
そう思うのに、この二年間の気持ちをぶつけたい自分もいて…
どうする?どうする?どうする?
『山崎。』
急に話しかけられて驚いた。
『は、はい!!』
『好きだ。』
………………………。
好きだ。
その言葉が俺の頭の中でリピートされる。
どういう意味だろう?
好きだ。
後輩として?
好きだ。
何が?
俺は何も言えなくて、沈黙が続く。
『あっ…えっと…』
無理矢理に沈黙を破ろうと何も考えずに口を開く。
『山崎、俺はお前が好きだ。』
足を止め、俺の方を向きながら言う小宮さんをジッと見つめる。
俺の心臓はうるさいぐらいに鳴っている。
小宮さんが俺を好き…
それは俺と同じ好きなのか?
勘違いかもしれないけれど、俺も言いたい、早く言いたい。
『俺も…小宮さんが好きです。二年前からずっと…』
『えっ?』
小宮さんはすごく驚いた顔をして立ち尽くしている。
もう一度言おう。
『俺は、小宮さんが好きです!!』
二年分の思いをその一言に詰め込んだ。
ギュッ
その瞬間、小宮さんに抱きしめられた。
温かい…これは夢じゃないのかな…
『あっ…と、ごめん。公共の場でよくないな。』
そう言いながら俺から離れ、周りを見回す。
その姿になぜだか笑ってしまった。
『山崎、俺自惚れていいんだよな?』
『はい!!!』
急に訪れた春に俺の心はとても暖かかった。
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