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54 入社二年目3月。

どうしよう… 何も言えない。 『あっ…ごめん。迷惑だったか…?』 『いえ!!そうじゃなくて!!』 その続きが出ない。 いえ、そうじゃなくて…嬉しい!!だろ? なんでそれが言えねぇんだよ!! 『山崎?』 『えっ?』 『お前、泣いてる?』 『えっ…うわっ!!』 俺のバカ。 何涙流してんだよ。 それこそ女子じゃねぇか。 嬉しいって言葉が出ないで、嬉し泣きとか絶対引かれる… 『大丈夫か?』 無言でコクコクと頷きながら、声を絞り出す。 『う…嬉しくて…』 そう言った瞬間に心配そうに俺を見ていた小宮さんがパァっと明るい顔になり、満面の笑みで言う。 『よかった。』 その一言、その笑顔に俺の胸はキュゥっと締め付けられる。 俺、この人大好きだ… わかりきっていたことなのに、またしても俺の中での小宮さんが大きくなる。 と、同時に期待させないでくれ。と俺の中の一部が言う。 なんでだろう? 後輩だからかな? いや、それ以上の何かを思ってくれているのかな? 考えれば考えるほど、フラレた時のことを考えて寂しくなる。 やっぱりこのまま… この良い関係でいたい。 『あ、開けてもいいですか!?』 俺は涙を拭って、明るく聞く。 『おう。気に入ってもらえるかわからないけど…』 真っ白なその箱を開けた。 『タイピン?』 中にはシルバーのシンプルなネクタイに付けるピンが入っていた。 『うん…何がいいかなって思ったんだけど、それが目に入って…今の若い子ってあんまりタイピン付けないよな?買ってから思った。いらなかったら捨てて。』 『いやいや!!!絶対使います!!使わせてもらいます!!!』 『本当か?』 『はい!!!タイピンってなんか大人っていうイメージが強くて、手を出せなかったんですよね…小宮さんが付けてるの見て、かっこいいなって思ってたんで。』 勝手に俺の口から出たかっこいいという言葉。 さっきは下心なしなんて言ったけど、今回はある。 こんな言葉だけで俺の気持ちに気付いてほしいなんてズルイかな… 『よし、じゃぁ付けてやる。』 そう言って小宮さんが俺の前に腕を伸ばす。 俺のネクタイに綺麗な長い指で起用に付けてくれた。 その動作でさえもかっこいい。 『うわぁ…』 『うん。かっこいいな。大人って感じ?』 ニシャっと笑いながら小宮さんが言う。 ふざけた笑顔は子供みたいに可愛くて、またしても胸が締め付けられた。 言いたい… 好きって言いたい… その気持ちで頭の中が埋め尽くされる。 今なら言える。 そう思うのに俺の口は動かなくて、結局気持ちは伝えられなかった。 『よし、そろそろ帰るか。』 『はい。』 食事を終えた俺たちは、外に出たのだった。

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