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プロローグ1

今年も夏が近づいてきた。名残惜しく感じる春の風を受け、閉じていた目をうっすらと開く。毎年この季節になると、ふと思い出すことがある。 「雅癸…」 ぽつりと呟いたその名前は、愛おしい人の名前…。 などではなく、むしろその逆。大嫌いな奴の名前だ。 「あいつ…!」 雅癸は男である俺の処女を奪った男。中学生時代の親友だった。親友である彼が、俺のことをそんな目で見ていたなんて。今でも思い出すと嫌気が刺す。 思い出したくもない思い出なのに、この季節になると嫌でも頭に浮かんでしまう。あいつの顔が…。 「あ、祐大君。ここにいたんだ」 名前を呼ばれ反射的に振り返ると、そこにはマネージャーの鈴宮さんが居た。鈴宮さんはデビュー当時からの付き合いで、本当にお世話になっている。年も近いため、何かと気も合うし。 「探してたの?何かあった?」 鈴宮さんは額に少し汗を浮かばせている。先程までスタジオに居たのなら、汗なんかかかないはずだし、俺を探していたのだろう。 「さすが、鋭いな。実はさっき、加瀬監督から直々に連絡があってね。今度の監督のドラマに、君を使いたいんだって」 「加瀬監督が?」 「勿論、出るよね?」 「当たり前だ。俺から連絡しておくよ」 加瀬監督とは、芸能界じゃかなり有名な映画監督。最近はドラマの方でもかなり監督をしているらしく、そのドラマは大抵視聴率が良い。 そして何よりも、加瀬監督は俺のデビュー作で監督をしていたのだ。俺がここまで人気になれたのも加瀬監督のお陰、と言って良いくらいだ。 直ぐに承諾すると、さっそく電話を掛けるべく楽屋へと向かった。

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