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プロローグ2

楽屋へと戻った俺は、直ぐに加瀬監督へ連絡をした。 『もしもし、祐大か?』 「はい。お久しぶりですね、監督」 『久しぶりと言っても、まだ一年じゃないか』 「そうですね」 久々に話した監督は、昨年と全く変わりようのない明るい声だった。まだまだ元気そうで、安心する。監督は今年60歳を迎える。そろそろ身体も、労らないといけないころだ。 「今回は俺をキャストに指名してくれたそうですが?」 『ああ、役が君にあっていると思ったからな。今回も期待しているよ』 「ありがとうございます」 やはり加瀬監督は、人をその気にさせるのが得意なようだ。一言でやる気が出てくる。これだから、監督は人気なんだろう。 『じゃ、また顔合わせの時に会おう』 「はい。失礼します」 プッ 余韻も残さず歯切れ良く切れた電話越しには、まだ、ツーツーと無機質な音が聞こえてくる。なんだろうな、電話が終わった時の焦燥感。 カタン、と小さな音を立てて椅子から立ち上がれば、鞄を持って楽屋を出る。ビルから出ると、まだまだ暑い日差しが当たる。鈴宮さんが用意してくれた車の助手席に乗り込み、車はゆっくりと発車する。 鈴宮さんは、運転している姿がとても様になる。鈴宮さんなら、車のCMなどに出れそうなほどだが。そんなこと口には出さないけど。 「そう言えば、今回の演技指導の方。祐大君と同い年らしいよ。大体いつも年上だったのにね」 「へぇ。それは珍しいな」 演技指導の方とは、ドラマや映画の際、俺らよりも先に演技を覚え指導してくれる方のことだ。役者よりも労働が多いし、多くの役者の分を覚えなければならないため、とても大変だという。そのため、大体が三十歳越えだったのだ。今回を除けば。 「ある意味、楽しみだな」 空を見上げ、ぽつりとつぶやいた。 この考えで絶望のどん底に落とされる日が来るのは、あと数日後の話___

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