15 / 15

偶然とは最悪なもので13

どれほど時間がたったのだろう。 かなりたったのかもしれないし、実際は数分もたっていないかもしれない。 でも、俺は雅癸の腕のなかにいる。これだけは本当に事実なんだ。 それなのに、俺は抵抗をしようとしない。抵抗するどころか、心拍数は早まるばかりだ。トクン、トクン、と互いの心拍数が重なり合う。 俺は何もいわないし、雅癸も何もいわない。言いたいことは山ほどあるのに、雅癸に触れたとたん、全て消えてしまった。 長らくの沈黙を破ったのは、雅癸の言葉だった。 「お前は、俺のことを恨んでいると思ってた。お前がそう言ってたから、仕方ないと思ってた」 「でも、今の言葉を聞いて、とても俺のことを嫌っている素振りではないと思った。まだ、俺のことを、親友であると思ってくれてるんじゃないかって」 言葉一つ一つに、とてつもなく重いものを感じる。雅癸の、長年の思いがこもったように。一つ一つ、大切に紡がれていく。 「むしろ、俺のことを好きでいてくれてるんじゃないかって思った」 そのたった一言に、ドクンッと胸が高鳴った。 俺が、雅癸の事を、好き? そんなこと、思った事なんてない。今までなんて、思いたくもなかった。 嫌い、それしか言葉は見つからなかったのに。 いつの間にか、好き? 俺の気持ちは? 「単刀直入に聞く。…祐大は、俺のことが好きなのか?」 その言葉通り、まっすぐに俺の耳に届いた雅癸の言葉。 どうしても、認めたくなかった。俺が雅癸を好きだなんて。 昔はあくまでも、親友としての好きだった。これだけは確実だ。じゃあ、本当の好きになったのは、いつ?絶交したときは確かに、大嫌いになった。 …もしかしたら。 「…悪い。雅癸のことは、好きと言えない」 俺に残された言葉なんて、これくらいだから。

ともだちにシェアしよう!