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偶然とは最悪なもので12

頭では行きたくない、なんて思っていても、実際問題体がひとりでに雅癸の方に向かってしまっているのだから、もう止められることはできない。 スタッフの間をかき分け、雅癸の目の前へと歩み寄る。機材などの片付けが終わり、帰る支度をしていた雅癸は、周りのスタッフの騒ぎ方で俺が来たことに気づいたのか、こちらに視線を向けた。 「春村さん。どうかしましたか?」 また、春村さん呼び。その呼び方は、嫌いなんだ。 雅癸の方へと鋭い視線を向けると、雅癸の腕をつかんでこちらへ引き寄せた。 「おい、話がある。少しついてこい」 周りがスタッフだらけという事も忘れ、つい素で雅癸を呼び止めてしまう。 普段、誰にでも笑顔を振りまいている俺の素を見てしまったスタッフ達は、ぽかんとして俺たちを見ている。 でも、今の俺からしたらそんなこと気にしてられない。よく分からないけれど、雅癸に距離を置かれていることに違和感を感じて、他のことに気が回らない。 半ば感情的になり、強引に雅癸の腕を引いて、スタジオの外へと連れ出す。 人気が無いところに行きたくて、ひたすら歩き回る。雅癸の腕をつかんでいることすらも忘れていた俺は、雅君の「痛い」という言葉で我に返った。 「悪い、急に…」 取り敢えず使われていないスタジオに入ると、そこのドアに鍵をかけた。現在は使われていないから、鍵が掛かっていることにも気付かないだろう。 色々事情を含めて、ひとまず謝る。 今回ばかりは、全て俺が悪い。もう立派な大人だ。謝りもできなきゃ、ここまで上ってくる事なんて、できない。 「別に良いですけど…。どうかしましたか?」 また敬語を使ってくる雅癸。そのたびにもやもやと変な気持ちを抱く心。俺を見つめる茶色の瞳。癖のある紫色の髪の毛が微かに揺らぐ。 すぐに揺らぐものなんて、俺の心。 この気持ちは、一体何なんだ。 いつでも気がゆるむと思い出してしまって、いざ目の前に現れれば、どきどきしっぱなし。 「何だよ、これ…」 「なんで、こんなにもお前に惑わされなきゃなんないんだよ…!」 言ってしまった。胸の内を。自分ですらも否定し続けていた、この本当の気持ちを。 それをきいた雅癸は、ぽかんとして俺を見ていた。どうしたらいいのかわからない、そんな反応だ。確かに、今までずっと嫌いだって言い張ってたのに、急にこんな事言うなんて。俺自身、よく状況が理解出来ていない。 「よく分かんないけど…、お前が現れてから、俺が俺で居られないんだよ…」 ずっと本当の自分を隠していた。ずっとずっと…。 常に笑顔振りまいて、先輩からも後輩からも気に入られるように、愛想磨いて。周りに合わせて、ひとりだけはみ出すことがないように、そんな風に生きてきた。 そんなときにいつも浮かぶのが、この顔だった。大切な大切な、親友の顔が。 「もう、自分の気持ちがわからねぇよ…」 やばい、泣きそうだ。 こみ上げてた気持ちを吐き出したとともに、涙すらもこみ上げそうになり、必死に目元で押さえる。 そのとき。 「祐大」 ふと、名前を呼ばれた。 それとほぼ同時に、身体が勝手に前へと進んでいく。いや、進んでいくのではない。引き寄せられる、のだ。 ポス、と小さな音を出して俺の身体に温もりが伝わった。トクントクン、と耳元でこだまする音。 それで初めて、雅癸に抱き締められていると気づいた。気付いてしまうと、一気に顔が赤くなる。俺よりも身長が高い雅癸は、俺を軽々と包み込んだ。

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