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偶然とは最悪なもので11

ついに撮影日初日。 重い足取りで鈴宮さんの車に乗り、スタジオがあるビルへと向かう。 行くまでに何度ため息を付けばいいのだろうか、そんなことを思ってしまうくらい、今日はため息を付いている気がする。 これもすべては雅癸のせいだ。あいつがあんなこと言うから… 「って、あー!」 なんで朝っぱらから雅癸のことなんか思い出さなくちゃならないんだよ! 俺は雅癸を頭から除外するために、激しく首を横に振った。 先ほどよりももっと重い足取りで、スタジオの扉をあける。 すでにセットは済んでいて、カフェ風のセットになっていた。 暖かい色の照明が、少し心を落ち着かせてくれる。普段から真っ白な照明ばかり使っているからだろうか。この色の照明が、木漏れ日のように感じる。 その暖かい光に目を細めていると、肩に手がポン、と置かれた。監督や鈴宮さんかと思い振り向こうとしたも、次の瞬間それを躊躇してしまう。 「おはよう」 普段よりは明るい話し方だが、この声は紛れもなく雅癸だからだ。返事するのも、喧嘩売るのも面倒くさい為、振り向かないことにする。 「おーい。祐大ー、おーい」 後ろから声が聞こえるとともに、肩を強めに揺さぶられる。肩から伝わる雅癸の熱にも心は乱され、思わずその手を払ってしまう。 「…あー、わり」 雅癸はそれだけ言うと、スタッフのいる方へと走っていった。 俺、今雅癸のこと、凄く傷つけた。雅癸があれだけで終わるわけねー。普段の雅癸なら、もっとぐいぐい来るはずなのに。いつもと違う。 こういうときの雅癸は、本気で傷ついている。それは、昔からあったことだから。普段はすごく話しかけてくるくせに、その時だけは一人になろうとするんだ。 「…ごめん」 面と向かっていえないなんて、心はまだあのときのまま。喧嘩した日は、お互い素直になれなくて、一日中口きかなかった。でも、次の日にはお互いケロッとしてて、普通に話してる。これが俺らの当たり前。だった、あの頃は。 今はどちらも成長していて、心だって当然変わっている。それでも雅癸があの頃のことを覚えているのなら、仲直りできるはず。 だと、思っていた。でも、現実はそんなに甘くない。 その日の撮影は無事終了した。 でも、俺は心残りで仕方ないことが一つある。 勿論、と言うべきだろうか。雅癸のことだ。 あの後から、仕事内容以外で話しかけてこなくなった雅癸。しかも、仕事中は仕事中で、なんだあれは。 『あ、春村さん。ここの演技は……』 『春村さん。監督が呼んでます』 『春村さん』 なーにが「春村さん」だ! うざいくらいにベタベタしてたと思えば、急に他人みたいな態度とるのかよ。意味わかんねー。 いや、一番意味わかんねーのは俺だな。 なんで、雅癸の方に足が進んでるんだよ…

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