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偶然とは最悪なもので10
こんなにも気持ちが揺れるのは、どうしてだろう。相手は雅癸だぞ。他の誰でもない、あの雅癸だ。
「…恨んでるに決まってんだろ」
出来るだけ控えめに言ったが、キツい言葉に変わりはない。それに気が付いた。
雅癸が傷ついたような顔をしたから。
なんでこんな顔するんだよ。お前の中の俺は、どんな理想が生み出されているんだ?俺のことなんかさっさと忘れちまえよ。
「高校入って新しく友達作ったんじゃねーの?」
「お前ほどの親友は出来なかったよ」
「仕事楽しくやってんじゃねーの?」
「親に決められた仕事だよ」
「…あー、もう!恋人とか居るんじゃねーの!?」
「お前のこと好きなのに、なんで恋人作るんだよ」
そっぽを向きながらぶつぶつと交わした会話は、いつの間にかとんでもないことを晒していた。
なんなんだよ、こいつ。ここまで突き放されてまで俺のことが好き?意味分かんない。俺は嫌いだって言ってるんだ。
嫌いなはずなのに…。
「もういいだろ!帰れよ!」
なんでこんなにも心が乱れるんだ。
平常心で居られなくなった俺は、雅癸をベッドから突き落とした。怒鳴り散らすと、雅癸は眉を下げて立ち上がった。そして俺を一瞥し、ドアの方へと歩みを進めた。
そして、ドアの前で両足を揃えて立ち止まった雅癸は、俺に背を向けたままこう告げたのだ。
「お前が俺を恨んでいても、俺はお前を好きでいたい」
告げたのかは分からない。自分に言い聞かせるように、呟いたのかもしれない。
実際どうなのか、俺は知りもしない。でも、今の俺の心には、雅癸の言葉が強く響いてしまった。強く残ってしまったのだった…。
雅癸side
「…っ、あー…。バカだ、俺…」
すっかり朝日も出てきて、キラリと輝くガラス窓を見上げながら、俺は一人で呟いた。
嫌いって言葉が、こんなにも辛いものだと思わなかった。今まで散々嫌われてきたのに。嫌いって言われるのは、慣れっこだった。
高校の時に、先輩差し置いてレギュラー取ったときとか、テストでクラスの人気の奴よりも良い点数取ったときとか。
仕事に入ったときもそうだ。仕事初めて直ぐに、それなりに良いところのオファーがあって、そこで大成功を遂げた。俺のことを可愛がってくれていた先輩たちは、当然喜んでくれると思った。しかし、先輩たちは俺の悪口を言うようになった。仲良くしていた同期も、先輩たちに流されて俺と話をしなくなった。
やっぱり祐大以外は、信じられない。祐大だけだったから。俺に本気でぶつかってきてくれた奴は。
「お前はお前だろ。弱い強い関係なしに、お前はお前なんだから。自分に自信持てよ!」
いつだったっけな。祐大が俺に言ってくれた言葉。試合で負けたときだったっけ。すごい落ち込んでた俺に、元気をくれた言葉。
俺は俺だから。自分に自信持たないといけないんだって、俺に分からせてくれた。
多分あの時だ。祐大のこと好きになったのって…。
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