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偶然とは最悪なもので9
祐大side
…これはなんだ。どういう状況だ?
おはようございます、春村祐大です。
さて、目が覚めたら隣に人が寝ているではありませんか。しかもそれは俺が大嫌いな男、川村雅癸。なぜこんなことに?
「んんっ…、祐大…?」
のどを鳴らしたような低い声に衝動的に下を見ると、転がったままの雅癸がうっすらと目を開けて、俺を見据えている。
「おはよ。ちゃんと寝れた?」
雅癸は目をこすりながら、俺に合わせるように上半身を起こして座った。
朝一番の挨拶を雅癸にされるなんて。しかも何だ、その笑顔。俺はお前の恋人かなんかじゃないぞ。
「おい、なんでお前がここにいる」
そうだ。俺は昨日、廉さんとバーで飲んでいた。なのに目が覚めたら家にいて、隣には廉さんじゃなくて、雅癸がいる。おかしいだろ。
服は…。ちゃんと着てるな。それならまだ良しとするか。服が脱がされていたら警察に追放するレベルだと思う。
「おいおい、忘れたのか?お前が家に上がらせてくれたんだろーが」
「…はぁ!?」
目が覚めてきた雅癸が口に出した言葉は、俺からしたら聞き捨てならん言葉だった。
俺が自ら雅癸を家に招き入れた?いや、そんなことあり得ない。雅癸なんかを家に、ましてやベッドに招くなんて。
「嘘いってんじゃ__」
「嘘じゃねーよ。お前が誘ってきたんだろ?エッチなことしない?ってな」
否定しようとすると、雅癸の言葉に遮られる。しかも、それはなんなんだ。俺が雅癸を、行為?に誘っただと。いや、確かに酔ってた。酔ってたけど、そこまでやったのか、俺は。
逆に申し訳なくなってきたぞ。勝手な勘違いで疑った。でも、元いえば昔のこいつが悪い…。いや、そうじゃないだろ。俺のことを反省しろ!いやでも…。
頭の中がごちゃごちゃになる。自分を否定するのか、雅癸を否定するのか。頭の中だけ春村祐大が二人になっているみたいだ。
俺が必死に頭の中で格闘を繰り広げていると、隣から笑い声が聞こえてきた。
「ふはっ。お前顔すげー事になってんぞ」
声が聞こえる方に顔を向けると、雅癸が笑いながら俺を見つめていた。不意にも目があってしまい、直ぐに顔を背ける。朝だっていうのに、色気たっぷりの目で見るんじゃねーよ、バカ。
「一人で百面相繰り返してるとかっ、ホントに人気俳優のする事かよ。っ、ははっ。あー、腹イテー」
雅癸は大爆笑しながら、ベッドをボスボスと叩いている。ここまでバカにされたのは久しい。久しぶりだからだろうか、凄くイラつくな。
「いい加減笑うのやめろよ。さすがに怒るぞ」
「おー、わりーな。なんか新鮮でさ。昔もこんな顔する事、あんま無かったし」
昔も。
こんな言葉使わないで貰いたい。俺の中で雅癸の存在は、昔の雅癸の存在は消したいものだから。
「…俺のこと、まだ恨んでるのか?」
少しトーンの落ちた声に反応し、ふりかえる。
雅癸は真っ直ぐに俺だけを見つめていた。けど、
…その瞳は、儚く揺らいでいた
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