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第5話

 「だ……れ……?」  「僕、わからない?」  いつものように凌馬の頬の涙を舐めて拭った、頬に手をあてた凌馬の目が大きく見開いた。  「コウタ……?」  「僕は、もう行かなきゃいけない。ごめんね、元気になってまた一緒にあの家に帰りたかった。けれど、凌馬を守ってくれる人がもう見つかったね。僕がいなくても大丈夫」  「駄目だ、行かないで!絶対に駄目だって!今までずっと一緒だったのに」  「僕は凌馬よりずっと小さくて、独りで寂しくて泣いている凌馬を抱きしてめてあげることさえ出来なかった。あれだけ愛してもらったのに何も返せなかった」  「違う、独りの夜にいつもそばに居てくれたのはコウタだった」  「雨の夜に凍えている僕を拾ってくれたあの日から、僕は凌馬の特別になりたかった。神様にお願いして、もらえた時間はほんの少しだけ。だから、最後に凌馬を抱きしめさせて」  「コウタ、嫌だ。嫌だ、駄目だって。どこにも行かないで、お願いだから」  「もう寿命なんだ、先生にも聞いたでしょう?今までありがとう、泣かないで笑って」  「コウタ、コウタ、駄目だ、いやだ……」  「ああ、やっぱり凌馬の涙は綺麗だ。もう僕にはその涙を拭ってやることもできないけれど」  最後に凌馬を両手で抱きしめる。しっかりと抱きしめて、腕の中にいる凌馬の存在に安心する。こうやって抱きしめる手がずっと欲しかった。こうやって凌馬と話せる言葉が本当に欲しかった。もうこれで十分です、神様ありがとうございます。僕の気持ちを伝えるチャンスを与えてくれて、本当にありがとうございます。  「ありがとう凌馬、さようなら」  「い…や……だ」  凌馬の涙でぐちゃぐちゃになった顔がうすぼんやりとして消えていく。大きな声を上げて泣き出した凌馬を駆け寄ってきた先生が抱きしめるのが見えた。良かった、ここで彼に凌馬を引き合わせることが出来て。僕は幸せだ、そう今本当に幸せなんだ。小さい僕を抱き上げて泣き崩れる凌馬が見える。僕の声はもう届かない、僕の姿ももうその目には映らない。    ……今宵は "All Hallows' Eve"あの世とこの世が近づいて、重なって、境界線が曖昧になる夜。 【完】

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