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親知らず 12

広瀬が歯医者に行って数か月後、幼い広瀬を診察した小児科医がわかったと東城は教えられた。今は、北関東で内科医と小児科医の診療所を開いているらしい。 広瀬が連絡をとると、しばらくして手紙で返事が戻ってきたのだ。 夜に、広瀬は東城の前で手紙の封をあけた。 「俺のこと、覚えているそうです」と手紙を読みながら広瀬は言った。 東城はうなずきながら話を聞いている。 「知っていることは話してもいいけど、他の人には話したくないそうです。俺の親戚に話さなかったことがあるそうです。だから、俺の親戚にはついてきてほしくないそうです。それと、特に警察には自分が話をしたことを明かさないでほしいそうです」と広瀬は言った。「どう思います?」 「どうって、お前はどうしたいんだ?」 「話は、聞きたいです。隠していることがあるなら」 「じゃあ、聞きに行ったら」 「でも、警察には話したくないって」 東城はわざと軽く笑った。「とんちクイズみたいだな。警察には話したくないけど伝えたい相手は警視庁に勤務している刑事って」 広瀬はじっと手紙の文面を見ている。 「わざわざ手紙で連絡してきて、さらに、ほかの人間には話したくないっていうからには、かなりなネタなんだろう」 広瀬は目をあげた。きれいな目だと、こんな話をしている時なのに東城は思った。感情は相変わらずわからない。 「行きたかったら行ったら?正直に仕事のことも話せばいいんじゃないか。それで、相手がじゃあ話せませんっていったらそれはその時のことだし」 「そうですね」と彼はうなずいた。 手紙をたたんで封筒に戻している。 「もし、よければ一緒に行ってもいいか?先生には会わないで、診療所の近くで待ってるから」 広瀬はうなずいた。 彼があっさり同意するとは思わなかった。いつもの広瀬ならこれは自分の問題だからとかなんとかいって、ついてこなくていいというのに。彼も心のどこかで不安なのだろう。どんな話が待っているのか。

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