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第1話 女装して愛の逃避行。

side:絃 「先生、書けましたか? 失礼しますよ? って、しまったあああっ! 先生がいない。まさかまた逃げたのかっ! 先生!! 乙矢(おとや)せんせえええええええぃっ!!」  広い屋敷で悲壮感漂う声を張り上げ、俺――雪見 絃(ゆきみ いと)。もとい、ペンネームの『乙矢』と呼ぶ彼は、担当編集者だ。  俺はちょっとした物書きを生業としている。  ……で、巻き髪のウィッグを付け、桃色のワンピースを着た俺は何をしているのかっていうと――そんなの逢い引きに決まってる。  所々にフリルがついた可愛い裾に気をつけながら、垣根を跳び越えた。  俺の趣味は女装。どこまでも追いかけてくる編集者に嫌気が差し、変装のつもりで外に繰り出したのがきっかけだ。  そりゃあね、俺は長い睫毛に二重の細い目。高い鼻。薄い唇といった、整った顔。それに身長だって百八十センチで、モデル並みの体型をしている。学生の頃は男女問わず、告白された経験もしばしだ。  しかしまさか、女装した俺が外へ出ても全く気付かれないのに驚いた。  それどころか、うっとりした目で見つめてくるもんだから、楽しくなってやみつきになった。――はじめはね?  でも、今は違う。趣味が義務になってしまった。  それというのも、俺の恋人、和歌 流星(わか りゅうせい)に関係がある。  事の発端は、趣味の女装で今のように編集者から逃げていたことから始まった。  編集者の目を盗み、無事に外へと出られた俺は、交差点で――彼、流星とぶつかった。

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