32 / 59

 絃さん? 「ばっかじゃない? あんた何言ってんの? 大切なのは『誰か』ではなくて、『自分』でしょう? あんたが流星くんをどう思っているかでしょうが!! 世間体とかそんなのもの後で考えればいいわ。なにモジモジしてんのよ、情けない!! 男でしょ、はっきりなさい!!」  桃子さんの澄んだ高音が静かな周囲に響き渡る。  絃さんを怒る桃子さんってすごく男前だ。  いつも大人な絃さんが、桃子さんといるとなんだか子供みたいに見える。  桃子さんに指摘された絃さんは俺の顎を持ち上げる。  視線が重なった。  絃さんの目が、真っ直ぐ俺を見ている。  ドクン、ドクンと俺の心臓が大きく鼓動する。  視線が重なるたったそれだけで、俺の心臓は大きく高鳴って、凍えそうだった身体に熱が灯る。  それだけ、俺は絃さんが好きなんだ。  俺は自分の気持ちを再度実感していると、絃さんは重い口を開いた。 「流星、俺はお前が好きだ。お前のことをただのセフレだとは思っていない」 「っつ! 絃さん……?」  絃さんの告白に、心臓が大きく跳ねた。 「よろしい」 「悪い、桃子。巻き込んじまって」 「本当にね。そう思うのなら、あんたたちの日常を聞かせてね、楽しそう」 「…………え?」  てっきり桃子さんは俺たちを非難するのかと思ったのに、そうじゃなかった。  なんだか満足そう?  俺は桃子さんと絃さんを交互に見る。

ともだちにシェアしよう!