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◇
絃さん?
「ばっかじゃない? あんた何言ってんの? 大切なのは『誰か』ではなくて、『自分』でしょう? あんたが流星くんをどう思っているかでしょうが!! 世間体とかそんなのもの後で考えればいいわ。なにモジモジしてんのよ、情けない!! 男でしょ、はっきりなさい!!」
桃子さんの澄んだ高音が静かな周囲に響き渡る。
絃さんを怒る桃子さんってすごく男前だ。
いつも大人な絃さんが、桃子さんといるとなんだか子供みたいに見える。
桃子さんに指摘された絃さんは俺の顎を持ち上げる。
視線が重なった。
絃さんの目が、真っ直ぐ俺を見ている。
ドクン、ドクンと俺の心臓が大きく鼓動する。
視線が重なるたったそれだけで、俺の心臓は大きく高鳴って、凍えそうだった身体に熱が灯る。
それだけ、俺は絃さんが好きなんだ。
俺は自分の気持ちを再度実感していると、絃さんは重い口を開いた。
「流星、俺はお前が好きだ。お前のことをただのセフレだとは思っていない」
「っつ! 絃さん……?」
絃さんの告白に、心臓が大きく跳ねた。
「よろしい」
「悪い、桃子。巻き込んじまって」
「本当にね。そう思うのなら、あんたたちの日常を聞かせてね、楽しそう」
「…………え?」
てっきり桃子さんは俺たちを非難するのかと思ったのに、そうじゃなかった。
なんだか満足そう?
俺は桃子さんと絃さんを交互に見る。
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