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絶対的支配のNOIR13(4)

「俺はこんなことまで望んでなかったがな? お前を側近にして、傍に置いておければそれでいい。お前は忠実に俺と組織の為だけを思って付いて来てくれる、それで満足だった。俺たちは厚い信頼で結ばれていると思うだけで至極だったのにな?」 ――分からないか帝斗?  実力の面だけでいえばお前と同じくらいのヤツはいくらでもいた。  もっと俊敏に動ける奴も。  そいつらを差し置いて俺がお前を傍に置いた理由がお前には伝わらなかったんだろう? 「だったら俺も我慢する必要なんて無かったというわけだ? ん、帝斗? もうずっと……長い間、お前を想って独りで慰めたりしてきた俺はバカだったってことだな」 「慰める……って……どういう……?」 「分からないか? 現実で遂げられない分、妄想の中でお前を何度も穢したんだぜ? その度に自己嫌悪に陥りながら……こんな不純な気持ちを抱いちゃいけねえって思いながら戸惑って苦しんで……でも我慢できなくて想像するんだ。頭の中でお前をぐちゃぐちゃに辱めて穢して、どうしょうもなくなったコイツを独りで慰めて……」  グッと太股に押し付けられた硬い感覚に、帝斗はビクリと腰をよじった。 「お前に驚かれるのが嫌で普通を装うのも苦労したな? お前を思いながら抜いてるのもすげえ悪いことしてるみてえで辛かったよ。俺なりに呵責の念と戦ってきたんだがな? でももうそれも必要ねえな? 想像の中でお前にしてたこと……これから全部してやるよ。じっくり時間をかけて全部……な?」 「……っ!?」 「お前を日本には帰さない。剛のもとへはやらない。二度と……俺の下から離れることは許さない。俺以外の誰かを受け入れることも無論だっ!」  壁に押し付けられたまま腕を捕られ、服を引き裂かれたおぼつかない格好のままで唇を塞がれた。信じ難い告白と、突然に降って湧いたような都合のよい現実を受け止める余裕などなかった。欲情も吹き飛ぶような衝撃に翻弄されながら、帝斗の頭の中は真っ白で、到底何をも考えられる状態ではなかった。 ――日本で自身の帰りを待つ剛のことも、 ――今しがたの信じられないような告白も、  何もかもが夢幻のようで、帝斗は朧気に瞳を漂わせたまま、強引な腕の中で意識を手放した。 ◇    ◇    ◇  永い間密かに想っていた男に強引な形で奪われて、幸か不幸か彼の傍で過ごすこと半年余りが経った頃、帝斗は既に薄れゆく剛との蜜月の記憶をすっかりと忘れかけていた。  仕事の都合で日本に帰らなければならない用事ができた頭領白夜に連れられて帰国した自らに、どんな運命が待ち受けているのかということも当然のことながら想像し得ないまま―― 「どうした?」  香港の上空へと飛び立ったばかりの機上から、ぼんやりと眼下を眺めていた窓越しに映った白夜にそう声を掛けられて、帝斗はハッと我に返った。 「何も心配することはない。用が済めばすぐにまた此処へ帰って来るんだ」  日本へ行くことで何を気重に感じているのか、薄々気が付いているふうな白夜の台詞に慌てて首を振る。 「別に心配なんて……僕は何も……」 「それならいい」  ふと肩に回された腕に軽く抱き寄せられて、帝斗は安堵の気持ちが過ぎるのを感じていた。そんな思いのままに自らも身体を近寄せて預け、広い胸の中で甘やかな思いに浸る。  それとは真逆に、諦めと怒りと嫉妬と恋慕、そのすべてがどろどろに入り混じった思いを抱えて苦しんでいた剛から、信じ難い陵辱と求愛を受けることになろうとは、この時の帝斗には思いもよらなかった。  ねじれた愛憎と残酷な時が渦巻く地上に向かって、機体は雲間を縫う。  一刻、一刻、それぞれの想いと距離を縮めていく――  待っているのは至福か残酷か、ルーレットの玉が最後に収まる位置を予測し難いように――きっと結末は誰にも見えない―― - FIN -

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