5 / 6

絶対的支配のNOIR13(3)

「しかし驚いたな? お前が男と付き合っていただなんて」  手渡したCDを卓上へと放ると、至近距離でじっと見つめながら白夜はそう言った。  呼吸の間合いまでもがはっきりと伝わるような距離だ。いたたまれない思いに、帝斗は未だ身動きさえおぼつかず立ち尽くすのみだ。  ふと、タイトに整えた髪を乱すように長い指先に掻きあげられてビクリと顔をあげた。 「剛とはいつから? どっちから誘ったんだ?」 「なっ……!?」 「あいつにこのカラダを好きにさせてたんだろ?」  信じられないような矢継ぎ早の攻撃に、返す言葉など思い浮かぶはずもない。  ゆるゆると髪の間で遊ぶ指先がむずがゆく、瞬時に背筋をゾワゾワとした欲情が這い上がるのまで感じて、帝斗は身を固くした。 「だがそれもこれまでだ。二度と剛に抱かれることは許さない。剛だけでなく、他の誰にも……な?」  整えられた髪がくしゃくしゃに乱れていく感覚を拒否するように、帝斗は咄嗟に抵抗の姿勢をとった。両腕で白夜の指を振り払い、身を守るように肩を竦め後退りをして距離を離す。だがその腕ごと掴み上げられてしまったと思ったら、更に信じ難いような言葉が頭上から浴びせられた。  脱げ――  え……!? 「脱げと言ってる。服を脱げ、全部だ。全部脱いで裸になるんだ」 「何を……急にっ……!? 白夜っ!?」 「それとも俺が剥いでやろうか?」  白夜は脅すような声色で僅かにすごむと、戸惑う帝斗の身体を乱暴なくらいの力で引き寄せた。  邪魔そうにネクタイをよけたかと思えば、下ろしたて新品のワイシャツのボタンを勢いよく引き裂き、有無を言わせる間もなく次々とスーツの上着を肌蹴きタイを放り投げ――  気付けばスラックスのジッパーまで下ろされて、帝斗は蒼白となった。 「何をするんだっ!? よせ白夜っ……! 一体何だってこんなっ……」 「この下着……新品だな? わざわざ新しいのを下ろしてきたのか? ひょっとして俺にこうされることを予測していたとか? それだけじゃないな? 昨夜は九龍にホテルまで取ってご苦労なこったな? データひとつ持って来るのに大袈裟な」  耳元で囁かれる低い声、その内容に帝斗は耳を疑った。  何故そんなことを知っているのだ?  到着したのが昨夜で、九龍に泊まったことも――  すべてお見通しだったというわけか?  まるで執拗に見張られていたようではないか?  そう思うと、自身の思惑もすべて見抜かれていたような気になって、帝斗は恥かしさにカッと頬の染まる思いがしていた。  そんな思いをおかまいなしといった調子で、壁際に押し付けられ下着の上から意地の悪く敏感な部分を撫でられた。そして間髪入れずに裂かれたシャツの合間からこぼれる胸の突起を指の腹で弄られて、ギョッとしたように悲鳴がこぼれた。 「ひぃ……ぁっ……!」 「色っぽい声出すんだな? そんな声を……剛にも聞かせてやったのか? ん――、帝斗? どうなんだ。あいつにはどんなことをされた? どんなことをしてやった?」 「なっ……!? 白夜っ! いい加減にっ……」 「勿体ぶらずに云え」 「……そ……んなことっ……お前には関係ないだろ? 第一お前は男になんか……っ…!」  そう、男になんか興味なんてないくせに!  そう言いたかった。俺になんか興味のないくせに、仕事の話だけしていればいいじゃないか?  なのにどうしてこんなことをする? いきなりこんな――  訳が解らなくて涙がこみ上げてきた。情けなくて惨めで、今までひた隠しにしてきた苦しい想いが一気に蘇ってきて、それらを紛らわせようと模倣した挙句に剛とあんなことになったんじゃないか。  ヒトの気も知らないで勝手なことばかり言う、酷い男だ。  ツウと頬を伝った涙に、白夜のしかめられた瞳が更に不機嫌そうに歪んだ。

ともだちにシェアしよう!