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青空に背中を押されて
ここからの3つの話は、【夢見月】様からお題拝借しました。
「ぅおっしゃあ、終わったーーーーーッ!!」
澄み渡る青空の中、期末テスト最後のチャイムが鳴り、勢い良く立ち上がる。机の横に掛けていた鞄から、朝創が作ってくれた弁当を取り出して広げると、呆れたように担任の菅原から声をかけられた。
「おいおい、ちょっと待てって」
「なんだよ、もう終わりだろ?」
「せめて挨拶してから食え」
苦笑する菅原が日直を促して、号令に合わせ礼をする。
今度こそ、と大好物の唐揚げを口に放り込み、その美味さに思わず口元が緩んだ。ふと後ろの席から、自分よりも少し高い声が聞こえてきて、もぐもぐと口を動かしながら振り返る。
「ふふ、美味しい?」
「ん!」
口いっぱいに詰め込んだせいで言葉にならず、こくこくと頭を上下に振る。それに気を良くしてくすりと微笑んだ創が、当然のように継の膝の上に乗ってきた。途端に上がる周囲からの甲高い奇声はいつもの事なので、特に気にも留めない。シャッター音だって気にしない。
あーんと開いた口に卵焼きを一切れ入れてやる。その際ちらりと覗いた紅い舌は見なかった事にした。
「なあ、ほんとに体育館で待ってんのか?クソ暑いぞ?」
ガタガタと椅子を引っ張り出して同じ机の上にコンビニの菓子パンを広げた大介が、心配そうに尋ねる。その隣では、器用に箸を使いこなせるようになったジャスティンも同じように頷いていた。
きゅっと継のシャツを握り締めて、上目遣いで視線を合わせる創。
「………だめ?」
「や、あの、だめじゃないけどっ!暑いしさ、体調崩したら大変だろ?」
「そしたら継に看病してもらえるでしょ?」
「そうだけどっ!でも創が体調悪いのはやだ!」
膝の上の創に腕を回し、力いっぱい抱きしめる。そこかしこから聞こえるシャッター音に混じって、二つのため息が聞こえた。
「マジで先帰ってろって。コンクール近いんだろ?」
「あんな暑いところで練習したら、ケイだって心配するさ」
なあ?と継に同意を求める。
七月の終わりに、創のピアノのコンクールがある。いつも継達の部活が終わるまで体育館のピアノを弾いているが、さすがにこの季節の体育館、しかも部活中の熱気あふれる中でそんな事をさせられない。運動をしない創は特に体力もないので、三人に止められていた。
「な?終わったらダッシュで帰るから!」
「………わかった、早く帰ってきてね?」
コツンと額を合わせ、背中に回した腕に力を込める。継の耳元で熱い吐息と囁かれた言葉が、胸を高鳴らせた。
「ご飯、作って待ってるから…今日は一緒にお風呂入ろ?」
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