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待ちぼうけ
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ボールの音。
床を走る音。
それを打ち消すようなピアノの旋律。
体育館にあるピアノの前には、すこぶるご機嫌斜めな創がいた。
(…あの人、やだ)
シュートしようとした継にぶつかった。
継の足を踏んだ。
継に触った。
(継はおれのなのに……)
ここでピアノを弾いていると、いつもそんな事を思う。
けれど、継がこちらを見ている瞬間がわかるので、その時ばかりは継を見つめ返してニコリと微笑む。そうすれば、継は嬉しそうに笑ってくれるから。
(…継は、いつおれの気持ちに気付いてくれるのかな)
どろどろで真っ黒な、嫉妬でいっぱいの汚い自分。
(…継も、こんな気持ちになるのかな?)
深いため息を零すと、視線を鍵盤に落とした。
「………今日は、いっぱいしてほしいな」
ぽつりと、声が漏れた。
無意識のうちに目を閉じて鍵盤を弾く。
自分の中に渦巻く醜い自分。それを知ってほしくて、でも知られたくなくて。
考えれば考えるほど、胸が締め付けられる。
「…けぇ………っ」
苦しそうに創が声を漏らした時に、背中を慣れた暖かさが包み込んだ。
「……お待たせ」
「…うん」
「………泣くなよ、創」
「…………………泣いてないよ」
ぎゅうっと後ろから回した腕に力を込めて、覆いかぶさるように椅子ごと創を抱き締める。
「帰ろ、創」
耳元で囁いて、柔らかなそこを甘噛みする。ぴくりと反応する創が、座ったまま腕の中で振り返り見上げてきた。
「…ねえ、キスし」
最後まで言い終わる前に、創の唇は塞がれていた。
「…ん、…はあっ」
「創はオレのなの。わかった?」
部活が終わったとはいえ、体育館にはまだ他の生徒もいる。にも関わらず、何度も何度も唇を合わせてくる継。
堪らなくなって継の制服を掴むと、むすっとした顔の継が目の前にいた。
「あいつらに創見せんのもったいねえ」
最後にちゅっと音を立てて創の下唇を吸って、そのまま胸元に抱き寄せる。
「…悪い、今日は寝かせらんねえかも」
「……うん」
「よし、早く帰ってヤるぞ」
継が差し伸べた手を取り、創も立ち上がる。
二人分の荷物を持って継が歩き出し、創もそれに続く。
繋がれた手は、しっかりと指を絡めていた。
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