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黄色い月
【継side】
「は?体育大受ける?何言ってんの?」
「だって創がマジにバスケやってるオレの事かっこいいって!」
「いやいや、そこはほら、『先生みたいな先生になりたくて』だろ?」
「はあ?そっちこそ何言ってんの?」
図書室で創に言われて、やっぱり創には隠せないなあと思うと、なんかちょっと嬉しかった。創は、オレの事を一番理解してくれてる。
正直なところ、めちゃくちゃ迷ってた。子供たちと遊ぶのも好きだけど、オレ自身もっと動きたかった。でも、創とも離れたくない。そんなオレの気持ちを分かった上で、あんな笑顔で『バスケしてる継の応援したいな…?』とか上目遣いに言われたらもう!!!!ガチにやるしかなくなるだろ!!!!
その足で職員室に行って菅原先生を廊下に呼び出して、進学先を変更したいと伝えた。
「…まあ、予想はしてたけどな」
「へ?なんで?」
「な、お兄ちゃん」
「ふふ、そうですね」
オレの前で二人がにこにこ笑ってる。なんかムカつく。ぐいっと創を引き寄せて、オレの後ろに隠した。それを見てまた笑うのもまたムカつく。
「ちょっと待ってろな」と職員室に戻る菅原先生の背中をじっと睨んでみた。くそっ、笑いを堪えながら歩くんじゃねえよ!
肩をとんとんと叩かれて振り向くと、創がふわりと笑ってた。
「あのね、なんとなく継が違う選択するんじゃないかなって思って、前に相談してたんだ」
「創…」
さっき図書室で言い出す前に分かってたのか…やっぱ敵わねえな。
くしゃりと髪を撫でてやったら、えへへ、なんて嬉しそうに微笑んでくれた。あーもう、マジ天使!!!!
あー、ここが家なら確実に押し倒してんのにな…
「継…」
「んー?」
「声に出てるよ?」
「………まあ、そんなワケで」
「……………帰ったら、ね?」
きゅっと握られた左手。指を絡めて力を込めると、同じように握り返してくれる。はあ、幸せ…なんて噛み締めながらトリップしていたら、菅原先生が職員室から再登場しやがった。
お待たせ〜じゃねえよ空気読め!
「ほれ、書き直せ」
「あ、サンキュー」
手渡されたのは、前に提出した進路調査票。左手は繋いだままでそれを受け取ると、廊下の棚の上で文字を書き換える。
幼稚園の体操の先生に二重線を引いて、その下に書いたのは…
「見て見て、お月様!おっきいねぇ」
「そうだなー」
学校の帰りにいつものスーパーに寄って、夕飯の買い物をした。
今日はハンバーグにしてくれるみたいだから、オレはサラダ作りを手伝ったりする。ツナいっぱい入れてくれるって言ってたから、今からすげえ楽しみだ。
うきうきしながら帰り道を歩いていたら、創に腕を引かれて見上げた空に浮かんでいた満月。
「…ボールみたいだな」
「ふふっ、そうだねぇ」
夜空に浮かぶボールみたいに黄色い月と、オレの隣で微笑む創。可愛いなあマジで。
進路調査票に書いたのは、プロバスケ選手。創に応援してもらったら、何だって出来る気になる。いや、何だって出来る。
もう一度夜空を見上げて、温かい左手の体温を噛み締めた。
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