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猛獣達のpartynight

2017年9月15日 23:23  色とりどりの光を撒き散らすミラーボールに、顔色を変化させられながら、筧 広務は困惑していた。いや、呆気に取られていると言う方が、より今の心情に近いだろう。  ネオン輝く歓楽街…から少し外れた裏道のそのまた裏通り。  獣道か?と不安になる程雑草が生い茂っているため、前人に踏みつけられた痕跡を辿って行くしかない。 「ハブ出ないよな」  薄暗い上に、さわさわゆれる雑草に遮られ、膝から下がどんな状況に陥っているか解らない。  地元で一、二を争う危険生物に出会いませんようにと祈りながら通り抜けた先にあったのが、【wildcat】とゆう名のバーであった。  運良くハブには出会わなかったが、ある意味猛獣の檻に飛び込んだようなものだったと後日、筧は思った。 「やだ、いい男。金城さんのお友だち?早く紹介してよ」  筧が席に着くと同時に現れたのは、虎柄のボディコンシャスなワンピースを着た人物だった。  派手なメイクを施した顔も体のラインも女性と思わせるものであったが、183㎝の筧が見上げる程の身長と、その声で男性であると知れる。 「ああ、俺の大学時代の後輩で筧だ。筧、こちらはこの店のオーナーの虎子ママだ」 「筧です。よろしくお願いします」 「筧さんね。虎子です、これを機に,どうぞご贔屓下さいね」  そう言って差し出された虎子ママの手を、筧が握った途端、ものすごい勢いで引き寄せられる。  気がつけば筧は虎子ママに抱き締められた状態で、お尻を揉まれている。 「え~と、虎子ママ。オーダーしてもいいですか?」 「あら、やだ私ったら、まだお通しもお出ししてないのに。がっついちゃったわ」  ハグから解放されシートに座り直した筧であったが、今日一日の変転に体の力が一気に抜ける。  来期、台湾で新事業を立ち上げる予定のため、台湾に出張していたところに金城から呼び出されたのだ。  大学の先輩である金城は、押しが強く独特の癖がある人物ではあったが、その視点や先を読む思考とカリスマ性から、上級生下級生を問わず常時注目されていた。ある出来事をきっかけに親しくなった筧も、金城を尊敬し頼りにもしていたから、彼が大学を卒業し地元である沖縄に帰ってからも親しく付き合っていた。  そんな金城から、今日中に会いたいと言われれば、できうる限り希望に添えようと努力するのは当たり前だと筧は思っていた。 「筧、お前今誰かと付き合ってたりしないよな」  やぶからぼうに何を言い出すんだこの人は、そう思ったが筧は口答えせずに素直に答える。 「残念ながら、ここ数年特別な付き合いをしている人はいませんよ」 「ホントですか。社長もてそうなのに、何が悪いんですか~」  大分酔いが回った様子の上津がそう聞いてくる。  その質問ちょっと失礼じゃないかと思うが、怒るほどでもないからスルーする。 「ああ、それならいい。ママ、予定通り始めてくれ」 「オッケー、じゃあ、始めるわね。子猫ちゃんたちカモーン」  ママの掛け声と同時に、カウンター脇に設えられた小さな舞台に、モフモフの獣耳・尻尾を装着した、女の子たちが集合する。もちろん女の子と言ってもここはゲイバーだ。工事前から工事後も含め、虎子ママを凌ぐ勢いの猛獣たちが勢揃いしている。  何が始まるんだと身構えた筧の耳に、誰もが知るあの歌が聞こえてくる。 「ハッピバースデトゥーユー、ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースデーディア、広務~。ハッピバースデ~トゥーユー」 「筧、誕生日おめでとう」  いつの間にか金城がホールケーキを持って、筧の側に控えている。 「ほら、吹き消せよ」  そう言って筧の目の前に差し出されたケーキには、びっしりと蝋燭が刺さっている。 「何で律儀に47本も刺すんですか。こんなの熱いし、消せませんよ」  照れ隠しに言い訳しながら、蝋燭を吹き消す。  全ての蝋燭が消えた瞬間、店中におめでとうの声が響いた。  感激のあまり涙声で、ありがとうと答えた筧を待っていたのは、虎子ママを始めとするwildcat所属の猛獣達の本気のサービスであった。  激しいサービスに途中意識を失いつつも、南の島のpartynightを筧は堪能したのであった。

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